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・・・。 望んだから、失うことがあると。 それでも。譲ることは出来なかった。 「一番になりたい。って、思う力」 そう言ったのは。 誰だっただろう。 港から出た時に襲いくる、体験したことの無い蒸し暑さ。けど、潮の香りが漂うのは既に懐かしささえ覚える故郷と同じ。 それとは別に、ヤヨイは軽い眩暈を覚えた。北日本において三本の指に入る大都市。空に向って伸びた高層ビルの乱立を想像していた・・・とは言わないが。 函館では見たことが無いほどの大きな道。走るたくさんの電気自動車。その両側に並んだ街路樹。 普通に大都市にある光景なのかもしれないが。しかし決して曇った色ではなく。むしろ。清々しささえ感じさせる、透明な感覚を持っていた。 栗色の髪を揺らしながら、ヤヨイは初夏の日差しの中。港前の道を沿って歩く。ビル街にも緑が映えて街全体が自然を取り込んでいるような感覚さえ感じながら・・・。 ボストンバッグに吊るしたポシェットから顔を出したマーチが、ふと。驚いたように言う。 「樹の大きさが。全部違います」 ふと見れば。初夏の緑を生やす、整然と並んでいるように見える街路の広葉樹。それら一本ずつの形も、枝ぶりも違う。 「・・・ホントだ。遺伝子操作されてないんだ」 いわゆる大都市なら、共通の高さと落葉の少なさを実現させる為に『人に便利な、同じ樹』にしてしまうはず。 事実、一度だけ行った事のある札幌ではそうだったように思える。ここでは街路樹が植えられている場所にも小さな雑草が生えており、ありのままの樹がそこにはあった。 そして。 「あ。マスター、あそこ」 小さな手で上を指差しながらの声。吊られて見上げた場所に。彼女はさっきから感じている眩暈の正体を見つけたのだった。 同時に気付く気が遠くなるような蝉時雨。それが余りにも当たり前に存在しているから、今まで気付かなかった命を歌い上げる大合唱。 杜の都。と呼び習わされた、緑と共存を続けている街。 仙台。 ・・・。 特別目的が無いという訳ではなく。行って見たい場所が一箇所だけ。 港前のバス停から乗り。しばし揺られて、やがて到着して降りた場所には、まだ朝方だというのに流石に人通りが多かった。そのほとんどが観光だろう。 額に汗をかきながら石垣を傍らに見ながら階段を登っていく。蝉時雨は、尚も続いていた。 「マーチ、ほら。あそこだよ」 「あれ、お馬さん」 遠目で見ても一際目立つオブジェクトに近づいて。 ようやく、その足元に立ってから気付く。 「あ・・・そっか」 今世紀初頭から10年代にかけての。風化や酸性雨による破壊から防ぐ為に。 強化アクリル板で周囲を囲まれた、仙台という街の象徴的オブジェクトを少し残念そうに見上げる。 片目だけのその人は前面をその眼光で睨みつけ。前足を振り上げた美しい肢体の馬の迫力は、テレビの映像で見た物とは別格だった。 「この街を作った人だよ」 それは少々間違った知識なのだが。ヤヨイはケータイのカメラで写真を写しながら、そう説明した。マーチをポシェットから誘い、そこにある説明用立て札に座らせてもう一枚。思わずピースサインをしてしまって赤面している彼女に笑いながら、ヤヨイは一望できる仙台の街に振り返った。 目の中に緑が踊る。 ふと、その大きな姿を見ていたマーチが、ぽつりと呟いた。 「この人。紅緒さんですか?」 どうやら、侍と言いたいらしい。 「あ。うーん。ちょっと違うのかな?」 侍と武士と呼ばれる人達の違いを、余り正確には把握していないヤヨイは曖昧な返答だけを返して、マーチを抱え上げた。 「・・・マスター」 「うん」 「マスターと一緒に、その」 もじもじと何かを言いたげにしている彼女の頭を指でふにふにと撫でて。ふと、思う。 そう。ここに。 テレビでの映像でしか外を知らなかった自分が。此処に立っている事が。夢に近しいような想いとなって。 長いアームカバーの下で。少しだけ痕が傷んだ。 降る蝉時雨。緑の街は、そんな彼女を見つめていた。 ・・・。 お昼前まで青葉城をゆっくりと見学し、ヤヨイは仙台中央ステーション前まで歩いて戻ってきていた。 中央広場にも人通りが更に多くなっている。駅前で昼食を取ろうと思っていた彼女は、その足でてくてくと何気なく通りを歩き始めていた。今日の泊まる場所は既に予約してあるし・・・お昼から、どうしようかな。などと思いながら中央大通りを進んでいると。 その建物が目に飛び込んできたのだった。 「・・・」 余りにも『違う』そこを見て。5秒以上は立ち止まっていただろうか。 肩に座り何事かと目線を合わせたマーチも。その視線の先にある大きな建物に無言になる。 「マーチ、あれって・・・」 「ですよ、ね」 目を丸くした彼女たちの視線の先にある建物には大きなポスターが壁にかかり。 そこに『BMA神姫オフィシャルセンター・センダイ』と書かれていた。 オートドアを開けて入ったエントランス。入ってすぐ右が総合カウンター。左には軽食が取れる喫茶コーナーがあり、ヤヨイは居場所なさげにそちらに向かった。 と。 喫茶コーナーの入り口で。 「あら? 貴女・・・」 「え。はい?」 後から声をかけられてヤヨイは思わず振り返る。 スタイルの良い女性が立っていた。肩で揃えられたウェーブのかかった髪。耳元にはピアスが揺れて、ルージュに染まる唇は大人っぽく艶を帯びている。 「あ。あらあら、まぁ」 小柄なヤヨイよりも頭一つ以上は高いであろうその女性は、ふとある物に気付いて。ひょいと覗き込むように目線を合わせてくる。 「?」 「あ、ごめんなさい」 視線をヤヨイと、そして。 「ジュビジー初期モデルね。余り見かけないタイプだけど、うん。マスターに似て、とても可愛らしい」 にっこりと女性は微笑んでそう言った。 ・・・。 「いきなり御免なさい。ただ、大きなバッグは防犯対策の為にロッカーに預けて・・・って言おうとしたんだけど。あの子に目を取られちゃって」 照れたように笑って。 ヤヨイの頼んだカフェオレと、自分の物であろうコーヒー。そしてサンドウィッチを二人分注文した女性はヤヨイ達に向き直る。 うん、と頷いて。女性は自分を指差した。 「私は長久手菊菜」 「あ。遠野、弥生です」 「ヤヨイさんね。女性のマスターさんは少ないから、ちょっとビックリしちゃった」 「あ・・・」 言われれば確かに珍しいのかもしれない。函館では自分以外のマスターに会うと言っても多くて数人だったので気にはならなかったが。 「それにね?」 「?」 「こんなに可愛い子が」 くすくすと笑うキクナに恐縮するように顔を赤くする。 「えと。それは・・・」 「うん? 何かしら」 「私もです。その。キクナさんみたいな綺麗な人が」 一瞬きょとんとしたキクナは、真面目に言うヤヨイの顔を見て思わず吹き出した。 「ん、ふふ・・・あはっ。ヤだなぁ。私を一発でナンパ出来る男の人なんていないのに」 「あ。そういう意味じゃ無くて」 「うん。ありがとう」 そう答える微笑は大人の余裕なんだろうか。 マーチは今ここにはいない。ついさっき、キクナの薦めで2Fにあるカウンターに各部チェックを頼んで預けてきた。 流石に初めての場所での初めての体験。少々は不安げであったが。案内役の神姫をはじめとして、たくさん神姫がいる所に来ること自体が初めてなマーチは少しだけ嬉しそうでもあった。 「あの、キクナさん」 「なぁに?」 ふと、当たり前のことに気付いたヤヨイは問いかける。 「キクナさんも、神姫を」 「うん。当然。だって、此処にいるんですもの」 それもそうだが・・・けど、やっぱりピンと来ない。 ちらり、と綺麗な腕時計を覗き見たキクナは。誘うように笑って言った。 「それじゃ、迎えに行きましょ? 私達の大切な神姫を」 マーチは各部チェックも異常なしに終わり。待合室的な小物が誂えられた卓上で、彼女らにしてみれば大き目のソファに座っていた。当然・・・人間の片手に収まる程度ではあるのだが。 卓上には自分の他に十体程度の神姫がいて。気ままに寝いったり話をしたりしている。 嫌なことをされたワケでもなく案内役の神姫も丁寧に接してくれた。 こんなサービス的な物は函館では無かったし・・・それに・・・こんなに大勢の神姫がいる場所を、見たことも無かった。 マスターの迎えを待つ間、別段誰とも話さずに。ぼんやりと他の常連なのであろう神姫たちのやりとりを見ながら。それでもマーチはちょっと楽しかった。 (はじめて見る神姫がたくさん・・・) 特にEXモデルといわれるタイプ・・・今、向こうで会話の輪の中心にいるのは蝶型シュメッターリングだったっけ。 最新モデルである彼女らを筆頭として、EXと呼ばれるタイプは通常生産モデルよりも生産数が極端に少ない。レアリティの高い彼女らを函館では取り扱いさえしていなかった。 賑やかな場所から、ちょっと離れた所で。そんな風に他の神姫を眺めていると。 とふ、と肩に何かが覆いかぶさった。 「ふぇ?」 それが、誰かの両手だと気付き、ふと顔を上げる。 檸檬色の光が目の中に舞った。 こちらの姿を映し出す濃い紫色の瞳。 「・・・」 その瞳の主は。じーっと光が舞い踊る、空色の瞳を楽しげに覗き込んでいる。 「あ、あの。えっと」 慌てたようにそう言うが、目を逸らすことが出来ないマーチに。その整えられた髪を揺らして、イタズラっぽく彼女は笑った。 「・・・んふっ。ゴメンゴメン。なーんか嬉しそうだったから」 膝を背もたれにかけたかと思うと、ぐっと乗り出し体を躍らせて。マーチの隣に座る。 人間の女性の下着をイメージしたかのような素体カラー。肌色を強調した姿を隠そうともせず。けど、明るい笑みを彼女は浮かべた。 (・・・ジルダリアだ・・・) 「私はセプター。貴女は?」 「・・・マーチ」 またも目を覗き込むように顔を近づける彼女に思わず身を引きながら答える。 「マーチ? へぇ。カワイイ名前。何見てたの?」 意に介することもなく、セプターと名乗ったジルダリアは聞いてくる。 その行為がこっちの緊張をほぐす為だと解り、マーチも肩の力を抜いて微笑んだ。 「うん、あのね・・・」 「ハコダテぇ? ホッカイドーだったけ?」 驚きを隠すことも無い声。マーチが口にした単語にセプターは目を丸くした。 「そうだよ。セプターは?」 「私? 私はヨコハマから」 「ヨコハマ・・・」 聞いた事はある・・・大きな街のはずだ。けど、確かそれは。 「でも遠いよね。ヨコハマって。此処から」 「うん。マスターの仕事の都合で、こっちの得意様のトコにね」 照れたように笑うセプター。 そっか。 きっと、彼女も・・・。 「良い匂い。ラベンダー?」 指を差され、それが自分が付けている香水のことだと気付く。 「うん。マスターが付けてくれたの」 桃色の髪に手をやりながらマーチは嬉しそうに言う。 「良いマスターじゃない。その香水。きっと良いモノよ?」 「えへ」 それから他愛の無い話をした。 互いにきっと、居場所の無さをどこかで感じていたから。 マーチにとっては、こんなにたくさんお話するのは、ノーヴスに続いて二体目だ。 「セプターのマスターは、何をしている人なの?」 さっきの仕事の都合という言葉を思い出して聞くと、セプターはマーチをまた指差した。何だろうと首を傾げる彼女に笑って。 「香水とか、化粧品の販売よ。アケジマ。アケジマコーポレーション。聞いた事無い? ホッカイドーじゃCM流れないのかな?」 「んと。お化粧の・・・」 そう言われれば、そういう名前の化粧品をヤヨイの母が持っていた様な気もする。 「・・・そういえば。神姫用のお化粧品て、あるの?」 ちょっと気になって聞いてみた。自分は付けてもらっているが他の神姫はどうなんだろう。 「無くは無いわよ。私だって付けてるもん」 セプターが言うには。それは神姫の表面合成皮質を艶やかにするとか・・・あとリップとかが大半らしい。 だが、そう言われても。マーチはそういう物をお店などでも見たことが無かった。そのことも伝えると。 「あは。とりあえずショップの店先に並ばないわよ? どこに行ってもバトル用品優先」 しょんぼりとして肩を落とす。 「ヤだなぁ・・・そんなの」 「私もそうだけどさ。マスターの率は男性が圧倒的だし・・・それに『武装神姫』になるまで『神姫』の取り扱いもしてなかった所ばっかりだから」 「私はマスターに髪梳いてもらったりするのも好きだけどなぁ」 訴えるように言うマーチに、セプターはおかしくてたまらないといった感じで笑い出した。 「ふふっ、あはははははっ」 「??」 「あのねー、マーチ? 化粧品を並べられるようなお店が、無いってのが・・・ホントのトコなの」 良く解っていない彼女に彼女は笑いを隠そうとせずに続けた。 「神姫センターショップに化粧品なんて並ばないでしょ? 武装の箱の横に、香水とかジュエリーとか並んでなさいよ。どう見ても変じゃない?」 そう言われれば・・・。 「だから、通信販売限定」 「へぇ」 「そうだ、マーチのマスターにも言っててよ。人間用の中には私のマスターがデザインしたのもあるのよ?」 色々とセプターは。自分のマスターが混合した香水とかを紹介した。 「ステキなマスターだね」 そういう事が出来る人がいるという事さえ知らなかったマーチは、目を丸くしてそう言うしかない。 「うん・・・自慢よ」 セプターは胸を張り。 「一番ステキだもの」 その言葉を聞いた時。 「・・・え」 ・・・胸の奥が、ざりっと引き裂かれたように痛みを感じた。 なんだろう。この感覚は。 「私のマスターが一番ステキ。だから、私も一番ステキになりたいの」 嬉しそうに言うセプターの横顔が。 ・・・さっきまでと同じ、目線で見ることが出来ない。 「それは・・・違うよ」 なんとか絞り出した声。 「?」 意を介することが出来ないようにセプターはマーチに顔を向ける。 「私のマスターも、一番ステキだもん!」 「な」 一瞬唖然としたようだが、それを侮辱と取ったのか。 「なに言ってるのよ! 私のマスターの方が!」 「違うよ!」 捲し立てるセプターの声を叫んで遮る。 「何が違うってのよ!」 きっと、青い瞳で睨みつけて。 「セプターのマスターだけが! 一番ステキなんじゃないもの!」 引いちゃダメなような気がした。 絶対に、譲ってはいけないような気がした。 それがどこから来る衝動かはわからない。 けど・・・。 「なんですって!? そんなワケないわよ! 私の・・・」 立ち上がって叫ぶセプター。マーチも立ち上がって首をぶんぶんっと振る。 これだけは。 負けちゃいけない。負けられない。 そう、思えた。 「違う!」 「・・・っ!」 ぱんっ! ・・・。 顔が、揺れた。 「・・・ぁ」 頬に手をやる。ちょっとだけ、そこがあったかい。 セプターも「しまった」。と言いたげな困った顔を一瞬浮かべたが。すぐに眉を吊り上げてマーチを睨みつける。 「・・・!」 視界が滲む。痛さなんて大したことじゃない。 だけど何故か。 悔しさが。溢れた。 「・・・やったなぁ!」 ・・・。 何か騒がしい待合テーブル。 ヤヨイとキクナは顔を見合わせて覗き込み、ぎょっとした。 そこでは。 「セプター!?」 「マーチ!」 周囲の止めようとしている神姫の真ん中で。ぺしぺしぽかぽかと叩き合っている二体の神姫がいた。 ひょいっと手を伸ばしてキクナがセプターを掴み上げる。 「はいはい、落ち着いて。セプター」 そう言いながらも、その声はどことなく面白そうだ。 「離してよキクナ! こいつがっ!」 バタバタと手と足を動かしながら、僅かに涙を滲ませて顔を真っ赤にしたセプターが叫ぶ。 ヤヨイも、マーチを手で制する。はっと顔を上げ、何かを言いたげに口をぱくぱくさせていたが。やがて目からポロポロと涙が零れ出した。 「・・・マーチ、どうしたの?」 「だって・・・だってぇ!」 それだけしか言えないように。 だって、だって。と繰り返す。 ヤヨイは困ったようにキクナを見た。 彼女は暴れるセプターを右手でしっかりと持ちながら、うーん。としばし考えていたが。 「・・・じゃ。こうしましょ?」 ・・・。 「・・・」 中央に立体モニターが備えられているそれは見た事が無いほどに大きなバトル筐体。赤くBMAと染め抜かれたロゴが眩しい。 「勝負は10分セット。オフィシャルBMAシステム電波トレースコンタクト。良いわね?」 キクナがマーチとセプターの両方の顔を覗き込んで言う。 「ふん。文句は無いわ。どうせ結果は見えてるんだから」 自信ありげに言うセプターに、マーチが大きな声で言った。 「そっちが勝てなかったら、謝るんだよ!」 「!? なんで私があんたなんかに負けなきゃ!」 カッとして、詰め寄ろうとするセプターに、マーチも頬を膨らませて言う。 「私だって負けないもの!」 「この・・・!」 ひょい、とまたも掴み上げられる。 「はいはい、そこまで。あとは筐体内でね」 そういってヤヨイにウィンクを投げて。キクナは対戦側に足を向けた。 「うーん・・・」 ・・・どうしよう。 などと考えるまでもなく。マーチがくるっとこちらを振り向いた。 「マスター! 武装を!」 2037の彩 彩・第二話 第二幕
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日曜日、大志とシィルは揃ってヒマを持て余し……もとい、音楽鑑賞中。 かなり古めのCDラジカセ……はっきり言ってMP3コンポ全盛の2036年としては古代の遺物以外何者でもないが、恐ろしい事にこの家では現存していたどころか現 役だった。トドメのおまけにLPも再生可能な大型機。 「マスター、曲変えてもらっていい?」 「ん、良いけど……シィルってミスチル嫌いだったっけ?」 「好きでも嫌いでもないけど……この詩は好きじゃないかな」 CDが再生している曲はHERO、これはあまり彼女の趣味は合わないようだ。 了解、と呟いて大志は適当に別のディスクを漁り始める、彼の祖父、父、彼が集めたコレクションで通称「CDコンテナ」は常にゴチャゴチャだ。 「GGGのOP、ある?」 「……らしい、っちゃらしいね」 流れ星シィル 2話:飢狼 「マスター、やっぱり3次元駆動は負荷がおっきいかも」 「こっちでもモニタリングしてるから判る……けど少なくともマオチャオタイプと同 じくらいの3次元機動ができなきゃハウリンの攻撃パターンは読まれるからなぁ……」 家庭用ヴァーチャルシステムの向こうとこちらで、二人揃ってうむ~と頭を抱える。 「いっその事ドムみたいにホバーしてみる?」 「良いけど使える場面は本気で制限されるよ? ゴーストタウンとか市街戦跡地みたいな障害物の多い場所だとかえって足枷になりかねない」 広い場所限定ならそれもいいんだけどなぁ……と 追加武装案をがりがりとメモ帳に殴り書きする大志の横で、シィルが電脳空間から「降りて」きた。 彼は装備を考える時に既存の何かを元ネタにするらしく、手元には無数のガンプラやZOIDS、果ては戦車や航空機まで、雑誌、模型を問わず置いてある。 「犬がモデルのせいか元々平面でのダッシュについてはアドバンテージがあるんだよな」 知り合い連中とデータの取り合いをしているウチに、それぞれの特性を纏めたメモ帳までそこらに転がりだしていたらしい。 結局、新アイテム案は某大鉈ドムの大型ヒート剣と、それを問題なく振るうためのダッシュ能力強化装備にほぼ決まった。 「グロウスパイルユニットそのものにも追加バーニア付けるから推力不足にはならないだろうけど……加速効率が上がりすぎると問題だなぁ……」 「なんで?」 「君が耐えきれないだろ、Gに」 殆どジャンプユニットと化している加速装置をフルでぶっ放した場合のGは実に10G、 生身の人間ならこんなもん瞬間的にでも喰らった日には意識を保っていれば御の字だ。 取り敢えず予想されるデータを入れて再テスト。 ターゲットが某フロントミッションのゼニスVなのは……きっと大志の趣味なのだろう。 最高速に加速しつつ、居合いの様な姿勢で構えていたヒート剣を逆袈裟に振り抜く、 動きを止めることなく、流れるように次のターゲットを唐竹割りに叩き斬る。 その瞬間物陰から飛び出してきたターゲットに対しては…… 「どっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!」 本体左側の推力を全て進行方向から180度変更、両舷バーニア、全開、更に大鉈据え付けの加速装置まで点火。 突進力はそのまま、独楽のように回転してヒート剣の刃を叩き付けた。 「ダメだなぁ……動きが直線的過ぎる」 その様をチェックしながら、大志はぼやく。多少左右に振ったところで突進力の強さは回避力の低下と同義の様なものだ。 「同じ諸刃の剣なら馬上槍でも持った方が良いんじゃないかな」 槍を使った突進戦法は使い古された例ではあるが……使い古されていると言う事は信頼性がある事の裏返しでもある。 「剣が好きだからやっぱり剣に拘りはもちたいかなぁ……」 うむ~、と考えるシィルを横目に、大志は次の難関……パーツの調整に取りかかっていた。 で、時間は音速で流れて次の週、土曜日。 「……重い」 「ま、そうだよな」 新武装を装備した、言ってしまえば「ハウリン・グロウスパイル」状態のシィルは開口一番そう呟いた。 重い事はある程度想定済みで、それをどうにかするために2連ローラーダッシュを追加装備して負荷を減らしはしたが、焼け石に水、感は否めないようだ。 元々癖の少ない……決め手に欠ける神姫である事は否めないので取れる選択肢は格闘射撃どちらかに集中した戦闘スタイルを取る事に集約される。 世の中格射両方を高レベルで構成し、文字通り万能タイプとして闘う神姫も居るようだが、無論そんな繊細なチューニングをする腕は大志にはない。 「ま、合っては居るみたいだし良いかな」 「やって見なきゃ判らないけどね」 灰銀色と白で塗られた心守を身に纏い、無骨なローラーダッシュシステムを追加装備された狗駆を履いて、大斧の戦士は、電脳空間の戦場へと降り立つ。 「バトロイの人数は……10人びっちりか~」 『3連休の1日目だしな……グロウスパイルがデカいと言ってもリーチはたかが知れてるから、補助装備は4番だ』 「吠莱とミニガン?えらい射程長いの選ぶね」 『ゴテゴテしたアーンヴァルをちらっと見かけたから、用心のためって奴』 簡単な相談が終わり、戦闘開始の合図が鳴り響く。 Gは、予想を上回っていた。 最初の加速で、シィルは全開テストと実戦を一緒にした事を後悔する。 はっきり言ってジャジャ馬という単語はもっと大人しい装備のために有ると素で思えるくらい凄まじい。 目の前にはLC3を構えたアーンヴァルタイプが、我を忘れたようにシィルの方を見ていた。 (まぁ……無理ないけど) 刃を相手に構え、そのまま体当たりするかのように大鉈を叩き付ける。これだけの質量は、ヘタに振れば隙が生まれるだけだ。寧ろ振り下ろす時の加速用に付けられたバーニアも使って突進する方が最終的な被害も少ない。 数舜後、大鉈はアーンヴァルが戦闘不能になるほどの破壊力を示していた。 (広いフィールド専用かと思ってたけど……なれれば……なかなかっ!) 癖の塊の様なローラーダッシュも制御さえできれば奇襲にこれほど向いた装備はない。 結局の処移動の速さは「利」である、兵は神速を尊ぶべしの言葉に嘘はない。 真っ向から突撃戦を仕掛けてくるストラーフも、速度差で相手が全力を出す前に叩きつぶす。 その後、3体の神姫を「轢き潰して」漸くシィルの足は速度を鈍らせた。 「き……キツ……」 『推力を偏向させすぎたか……ちょっとトップスピード落とすから少しは疲労度が減……シィル!全速回避!』 ジャンプ用補助バーニアを一瞬噴かして大きく飛び退さり、どうにかそれの直撃だけは回避する。 セッティングしたばかりのリミッターは僅か7秒で強制解除。 気を抜いて相手出来る存在ではない、相手の居場所は「空」だ。 『足を殺す前にピンポイント攻撃仕掛けてくる間抜けで良かった……シィル、無事かい?』 「ど、どーにか……でもどうしよう、ナタ置いて来ちゃった」 『その為の補助装備だろ、ミニガンをセッティング、同時にワイアーガンをB3セットでナタにターゲット、移動ルートは示唆するからミサイルの迎撃に専念して』 片手で扱えるようカイトシールドにくくりつけたガトリング砲で弾幕を張り、雨霰と降り注ぐミサイルを撃ち落とす。 「わわわわっ!当たる当たる!壊れちゃうっ!?」 周囲にばらまかれるミサイルの炸裂音にまじって、シィルの悲鳴が響く。 『大丈夫だ、方位しか見てないめくら撃ちは所詮牽制攻撃の範疇さ……相手は本気でやってるようだが』 着弾の煙で最早視界は1mを切っている、大志が待ちわびた一瞬だ。 『B3を振り回してナタをぶつける、方角は分かるかい?』 「真っ正面」 『ご名答、インパクトと同時に電撃発射……3・2・1・GO!』 振り回される大鉈が回避行動を取り始めたアーンヴァルの足に当たり、その瞬間、電撃が走った。 漢の浪漫の具現化武器、電磁ロッドと言う奴だ。 『古畑……とか言ったかな?あのマスターの戦術は過剰火力による殲滅が主眼みたいだが……』 「鶴畑……だった気もするけど、それって相性悪くない?」 相手が無節操に放つミサイル、レーザー、ビーム、弾丸……それら悉くが……当たらない。 『煙の中に向けて光学砲を撃ったってちょっと眩しいだけ、実弾もこうターゲットが高速の上煙の中じゃ狙って撃つ、なんて夢のまた夢……レーダー誘導が無いでもないが……シィル、4時方向へジャンプ』 跳ねたシィルを追うように煙を割って飛び出してきたハルバード大型ミサイルがちょっと前までビルであった残骸に激突してそれを吹き飛ばす。 その衝撃波は、少し離れたところにあるビルの残骸に隠れていたシィルの髪を揺らした 『と、こんな具合だ……要するに躍起になって撃てば撃つほど奴さんは自分を……いや、違うな、マスターの指示があの神姫を不利に追い込んでいくのさ……ロッドを退いてナタを回収』 電磁ロッドを引いて、大鉈を自分の手元に戻し、盾を握り直す。 『シィル、狩猟解禁だ、お前の牙で大地を舐めさせてやれ』 大志の言葉を合図にしたかのように、都合良く風が吹き抜け、2体の神姫が互いの姿を捕らえる。 『ミカエル!今度こそ確実に仕留めろ!欠片ほどもこの世に残すなぁっ!』 相手のマスターの叫びにも近い声が響き、ミカエルと呼ばれた神姫から再び弾幕が張られる。 切れ目を縫うようにミサイルも打ち出されるが、今のシィルにとってそんな物は恐れるに値しない。なぜなら、勝利へ続くラインの最後の一手はたった今、相手が自ら放ったのだから。 半ば吹き飛ばされ、滑走台の様になっている残骸へとフルスロットルで突き進み、シィルは身体毎飛び上がる。 すぐさま、手近にあるハルバードミサイルを足場にして跳躍、踏み台にされたミサイルはバランスを崩してあらぬ方向へ飛んでいく。 2機、3機、一度の跳躍毎にシィルはミカエルへと接近していく、足場は後1機、それが、最後の跳躍。 最後のミサイルを蹴って跳ねた時、足下に違和感を感じた。直後、膨れあがる閃光と凄まじい熱がシィルを襲う。 「しまっ……!?」 バランスを崩し、地面へと落ちかけるシィルは電磁ロッドを発射、相手のなるべく頑強な部分……胴体にロッドを巻き付け、爆圧に逆らうことなく、前に向かって吹き飛ばされる。 ミカエルを支点に、ブランコを大きく漕いだ時のようにシィルは振り上げられ……頂点に達した時、更に足を振り上げつつ電磁ロッドを排除し、吠莱をぶっ放した。 反動で押された先には、ミカエルの背中がある。 「あなたがミカエルだと言うならば、ワタシはサマエルって処かな」 距離は0、最良の位置取り。 「ブースト、臨界!」 グロウスパイル……大鉈のブースターを限界まで吹かし、その背に刃を叩き付ける。 パーツを粉々に砕く衝撃と轟音、過剰なまでに火力を維持させられていたミカエルの翼が、負荷と衝撃、軸へのダメージに耐えきれず吹き飛んだ。 その様は、まるで白銀の飢狼が天使の翼を食いちぎった様にも見えて……。 絡み合うようにして落ちていくシィルとミカエル、落ちていく先には頑強な地面、 「バイバイ、翼の無い天使さん」 落ち行くミカエルの身体を蹴って、シィルは格闘戦の距離を離脱、大鉈を廃ビルの壁面に突き立てて減速する。 そんな事は望むべくもないミカエルは、そのまま地面に叩き付けられた。 <<バトルロイヤル全行程、終了……集計結果、1位、シィル……2位……>> 「勝ったか……」 ほぅ、と溜息をつきながら、大志は内心シィルの発想に舌を巻く。 電磁ロッドを3次元戦闘の足場に……というのは考えないでも無かったが、遠心力ま で利用するのは想定の外だった。 「よっと、ただいま、マスター」 「頼むから心臓に悪い事はしないでくれよ……一瞬どうなるかと思った」 シィルを肩に乗せてすっかり談笑モードに入っている大志の前に、大きな何かが立ちはだかった。 「おい、待てよ」 其処にいたのは、無闇やたらと太った一人の少年 「……何か用でも?」 慇懃無礼な口調に、大志の声も固くなる 「勝った、なんて思うんじゃないぞ、リアルバトルだったらお前の神姫なんて開始10秒で叩きつぶしてやってたんだからな!」 俗に言う往生際が悪い、という奴なのだろう。見ていてあまり気分の良いものではないらしい。 「……既に出た正統な結果に文句を付けるのはただの言いがかりと言うと思う」 「言いがかりじゃない!いい気になってるお前に意見してやってるんだ!」 鼻息も荒く言い放つ少年に、大志は軽くこめかみに手を当てる。 「初対面の相手に対して言葉遣いがどーとか言うつもりはないけど……要するにこちらが勝ったのが気に入らない、と」 肩の上でシィルまでもが少々呆れ気味だ。 大志は軽く溜息をつくと、その相手をじっと見詰める 「確か、古畑君とか言ったっけ?」 「鶴畑だ!仮にも神姫マスターなら鶴畑興紀の名前くらいしっているだろ!その弟の鶴畑大紀!その貧相な脳味噌にボクの偉大な名前を叩き込んでおけ!」 無闇やたらと偉そうな大紀を見る目を逸らさないまま、大志はぽつりと一言放つ。 「……ピザでも食ってろデブ、お前如きの名前なんぞ誰が覚えてやるか、記憶力の無駄遣いだ」 「デ……!?お、お前みたいな奴にそこまで言われる道理は……」 「無い、というなら噛みつかないで居て欲しいもんです、事実は事実、変える事なんてできないんですから」 その後、何か騒ぎ続ける大紀を無視して、大志は対戦スペースを後にする。 「……マスターの怒ったところ、久々に見た」 「ちょっと気が高ぶってたみたいだ……まだまだ、修行が足りないなぁ」 シィルの言葉に苦笑しつつ、大志の目はまだどこか遠い。 「さ、帰ろうか」 「その前に……アレ、買ってもらって良い?」 そう言ってシィルが指し示したのは、神姫用のお出かけ衣装。 武装ではない、ごく普通の衣類だ。 「……OK、選んできて良いよ」 そう言って微笑む姿は、いつも通りの、シィルの大好きなマスターの表情で…… 「………うん!」 嬉しそうに、彼女は服を選びにかかった。
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デザイナー 声優 神姫解説 性格セリフ一覧 親密度○時イベントのオーナーの呼び方 神姫ハウス内コミュニケーション ステータス情報 覚えるパッシブスキル一覧 神姫固有武器補正 神姫考察攻撃力 防御力 機動力 運用・総評 神姫攻略法 お迎え方 アップデート履歴 コメント デザイナー 島田フミカネ(ストライクウィッチーズ、メカ娘等) 声優 茅原実里(涼宮ハルヒの憂鬱:長門有希、みなみけ:南千秋、らき☆すた:岩崎みなみ、他) 神姫解説 アップデートされたストラーフMk.2のバリエーションタイプ。索敵・情報処理能力を向上させ、死角からの接近をサポートするマフラー状の複合センサーや、クロスレンジでの相手の分厚い装甲を撃ち抜くハンドキャノンなど、至近距離での戦闘力を強化する装備が追加されている。AIはノーマルモデルに比べるとやや素直になり扱いやすくなっているが、戦闘時には攻撃的な性格を垣間見せる。 名称:悪魔型ストラーフMk.2ラヴィーナ(あくまがたすとらーふまーくつーらゔぃーな) メーカー 素体:FRONT LINE 武装:FRONT LINE 型番:FL017/L (FLO17/Lとする記述もある) フィギュア発売:2011年3月17日(通常型)/2012年3月15日(フルアームズパッケージ/以下「FAP」) 主な武装:ストラーフMk.2に準じる(名称の末尾にラヴィーナ用を示す「/L」が付記される)ため、明らかに変更されたもののみを記載する。 ディーカヤコーシカ/L(コート&コーシカ/Lを連結した投擲武器扱い。元モデルでも再現できる) FL017ライラ/L(コンパクトに纏まったヘッドセンサー。元モデルのFAPにも実装された) FL017スペクトルガード/L+マフラー“キュアネ”(説明文にもある通りの複合センサー付き。その後元モデルのFAPにも実装された) (※)ストラーフMk.2FAPの段階で追加された装備は、当然その後のラヴィーナFAPにも追加されている。 通称「ラヴィ」「パトラーフ」。ストラーフMk.2のリデコリカラー品(そのややこしい経緯は元モデルおよびアーンヴァルMk.2の項を参照)。 通常版の黒を基調としたカラーリングに対し、こちらは白と黄・赤を基調にしたヒロイックなものに変更されている他、アップグレードモデルとしてFAPが存在。 意外な事に、中古市場での扱いは異様なプレ値のついた相方と比べれば、割とおとなしめ(武装量が非常に多くなったFAPにしても似たような傾向がある。おそらく後述するように、本作までの公式媒体での出番が皆無だった事が原因か)。 FAP用の装備については、本作での実装当初の段階では追加されていなかったが、テンペスタ同様レアリティRのカードにはFAP時の姿が描かれており、その後やはり追加実装された。 武装一式は基本的に(やはり)元モデルと同じものだが、後に元モデルのFAPにも逆輸入される事になる各種武装が追加されて印象を一新している。 更に一部で発売されているパトカー模型用のパトライトやフィギュアサイズの警察用シールド(コトブキヤ製「ウェポンユニット41/バリスティックシールド」が、一式入ってて一番楽)を取り付けた状態が前述の「パトラーフ」だ。桜の代紋まで入れば完璧。 本作では性格設定の若干の変化を反映してか、素体および武装の性能も微妙に変更されている他、ボイスも新録された。 初代及び元モデルと一緒に揃えば、みのりん神姫祭りだ! 彼女のFAPもまた、テンペスタと同様にコナミ内製武装神姫フィギュアシリーズの最後を飾った存在である。 そんな彼女だが、リデコリカラー品であるためか過去の公式媒体各作品には一切登場しておらず、本作が初登場。しかもテンペスタ実装と微妙に間が離れていたため、オーナー勢をやきもきさせたが、無事実装とあいなった。 なおレイドボスバトル(第三回)においては、実装時期が近い彼女の武装に(ジュビジーのものに比べればささやかながら)対エラー補正が付与されている。 性格 上記の通り公式作品への出演が長らくなく、更に相方のようなインターネットミームも特に発生していないため、本作でデビューするまでキャラがいまいち立ってない感は否めなかった。 (素体のデザインから風紀委員的な、武装と合わせてのカラーリングから警官的な立ち位置を設定するオーナーはいた様子) いざ蓋を開ければ、そこにいたのは爽やかヒーロー系神姫、それもニチアサ系というよりは昭和系。なにげに神姫史上ありそうでなかった路線である。 真っ赤なマフラーはかの時代のヒーローの伝統だっただけに、こうなるのも当然の帰結か。 セリフ一覧 + さあ、ショウタイムの始まりだ! ログイン時 通常(朝) おっはよー!気持ちのいい朝だね!この勢いで、バトルも気持ち良く勝っていくよ! おはよう!朝早くから元気いいねぇ!その調子で、今日も1日がんばろう! 通常(昼) こんにちは!次はどんなミッションが待ってるのかなぁ?って考えると、ワクワクが止まらないよ!! こんにちは!今回も、熱いバトルで盛り上げていくからね!さあ、張り切っていくよー!! 通常(夕) こんにちは!日が沈んでくると、なんだか寂しい気持ちになってこない?でも大丈夫!明日は明日の日が昇るからね!! こんにちは!この星の平和は、私が守る!あの美しい夕陽がある限り!!…キマった。 通常(夜) こんばんは!闇に蔓延る悪の組織を倒すために、今日もあたしは戦うからね!! こんばんは!日も暮れてきたけど、あたし達の任務はまだまだ続くよ!それじゃあ一緒に頑張ろうね! 通常(深夜) こんばんは!夜遅くまでバトルとは、なかなか燃えてくる展開だね!それじゃあ、いっくよー!! こんばんは!遅くまで頑張っているんだね!あたしも、その期待に応えられるよう、魂燃やして戦うよー!! 年始 あけましておめでとう!正月だろうと、そこに戦いがある限り、ヒーローに立ち止まっている時間はないんだ!さぁ!今年もがんばってこの星の平和を守っていくよ! (ボイス) あけましておめでとう!太陽の光は、正義のメッセージ!あの太陽と、美しいこの星を守るために、共に戦おうよ! バレンタイン くーらえーっ!必殺・バレンタインチョコーッ!!これだけ派手にしたら、受け取らずにはいられないでしょう?ふふっ。 ホワイトデー え、バレンタインのお返し?こんな嬉しいパワーアップアイテムをもらえるなんて、あたしは幸せだよ! エイプリルフール ゴールデンウィーク 夏季 暑い季節になってきたね。あの熱い太陽のように、あたしのハートも燃えているよ! 七夕 水着 ただいま期間限定イベント開催中だよ!特別に水着を着て戦うんだって!ヒーローも、多様性が求められる時代なのかなぁ。 ハロウィン おのれ、化け物軍勢め!…えっ、あれは全部仮装なの?なぁんだ、世界が絶体絶命の危機なのかと焦っちゃったよ! 冬季 寒い季節になってきたね。油断して体調を崩さないように!ヒーローは、どんな隙も作らない存在なんだよ。 クリスマス メリークリスマス!いい子にしていればサンタは必ずやってくる。ヒーローはいつでもいい子たちの味方だからね! (ボイス) メリークリスマス!良い子のために、プレゼントを持って来たよ!しかも、あたしと一緒に過ごせる特典付き!えへへ♪ 神姫の発売日 ん?なんだい?え?これをあたしに?あたしの発売日を覚えてくれてたなんて…。さすが、あたしの(オーナー名)!ありがとう、うれしいよ! オーナーの誕生日 今日は誕生日だね!おめでとう!次回!『来年もお祝いするよ!』を、お楽しみに! 神姫ハウス 命名時 呼び方変更 マスター。そろそろこの呼び方を変えてみない?どんな呼び方がいいかな? (→決定後) わかった、(オーナー名)だね。じゃあこれからは(オーナー名)って呼ぶから、呼ばれたら元気な声で返事をしてね! レベルアップ後 MVP獲得 マスター!さっきのバトルであたしがMVPに輝いたよ!これもマスターが的確に導いてくれたおかげだね!これからもあたしはマスターと共にこの世界を守っていくよ! 3連勝後 親密度Lv5後 えい!やぁ!そこだ!いっけー!ああ、(オーナー名)。一体何をしてるのかって?この映像を見てよ!あたしの他にもこの星の世界を守るヒーローが大勢いるんだ!みんな強いしカッコいいし最後は必ず勝利するし…。ヒーローって最高な存在だと思わない!? 親密度Lv10後 あたしもあのヒーローたちのように正義の力でこの世界を救っていきたい…!もっともっと色んな映像を見てあたしの中の正義の炎を燃やしていくよ! 親密度Lv20後 (オーナー名)。あれから色んなヒーローを見ていたらあたしに足りないものがいくつかあることに気付いたんだ。より完璧で強いヒーローになるために、(オーナー名)も協力してくれないかな?えーっと、あたしに足りてないものは…。 親密度Lv30後 他のヒーローと違ってあたしにはアレがないんだ…車とか。バイクとか…バトルの最後に合体して、巨大ロボになるアレだよ!すごく胸の熱くなる展開…!ヒーローには絶対必須だよね!ね!? 親密度Lv40後 というわけで、(オーナー名)!あたしをどんな合体ロボに乗せてくれるの?え?神姫バトルに合体ロボなんて必要ない?えー!なんでー!?ヒーローなんだからカッコよく合体ロボで戦いたいじゃないか! 親密度Lv50後 あ!そうだ!(オーナー名)!ヒーローは色んなアイテムを使って勇ましく変身してるんだ!こっちのヒーローは小型の武器で変身してるし…あっちのヒーローはベルトを回して変身してるし…そっちのヒーローは惑星のパワーを集めて変身してるし…! 親密度Lv60後 というえわけで、(オーナー名)!あたしの変身アイテムは何がいいと思う?え?神姫バトルの最初に自動で武装を装着するからそんな変身アイテム、必要ないって?えー!なんでー!?ヒーローなんだからお決まりの名乗り口上とポーズを決めてカッコよく変身したいのに!? 親密度Lv70後 変身アイテムもダメなら…。あ!そうだ!(オーナー名)!5人組のヒーローにはそれぞれカラーがあって、赤いヒーローが中心なんだよ!あたしは白系だから…思い切って真っ赤にリペイントしたいんだけど、どうかな?そして5人組のヒーローチームを作って悪の組織に立ち向かっていきたいんだ! 親密度Lv80後 というわけで、(オーナー名)!あたしと共に戦ってくれるヒーローを探してくれない?そしてあたしが赤くリペイントすれば『神姫戦隊バトコンジャー』の誕生だよ!え?ジェムバトルは3体チームだから5体のチームは無理?色も変えられないの?えー!なんでー?!ゲームのルールだから無理と言われても納得できないよ…。 親密度Lv90後 あれも無理…、これも無理…。ヒーローの道は険しいな…。あ!そうだ!(オーナー名)!一番大事な事を思い出したよ!ヒーローには必ず助けてくれる司令官や相棒がいるんだ!あたしに今一番必要なのは…、何でも作ってくれる謎の博士!というわけで、(オーナー名)!早速だけど、あたしを助ける謎の博士になってくれない? 親密度Lv100後 合体ロボも変身アイテムもアレもコレもあたしには必要ないって…?えー!なんでー?!それじゃ、あたしは憧れのヒーローにはなれないってこと!?え…?ヒーローは真似るものじゃなく自分が正しいと思った道をまっすぐ突き進むもの…?なるほど…!確かにそうだね!あたしはあたし!他に代わりなんていない、この星を守る唯一のヒーローなんだ!ありがとう、(オーナー名)!他のヒーローに憧れるあまり自分の中のヒーローを見失うところだったよ!よし!そうと分かったら早速世界の平和を守りにいくぞ!(オーナー名)もあたしと一緒にこの星の未来を守っていこう! 頭タッチ(親密度0~19) 急に頭を突かれると痛いから、ヒーローに用があるなら大きな声で元気よく呼ぼう!あたしと約束だよ? (親密度20~39) えっと…あたしの頭に何かついてた?髪型もヒーローにふさわしく整えてるから、あまり不用意に乱さないでくれないかな? (親密度40~59) なんだい、(オーナー名)?あたしを呼ぶってことは何か手助けが必要なのかな?いつでも助けてあげるからね! (親密度60~79) ありがとう、(オーナー名)。ヒーローでも褒められるとやっぱりうれしいものだよ。それが次の戦いへの活力となるからね! (親密度80~) (オーナー名)に頭を撫でてもらうと心がすごく落ち着くよ…。よし!気力充実!これで次もがんばれるよ! 胸タッチ(親密度0~19) きゃあ!(オーナー名)!いきなりどこを触ってるんだ!巨悪はこのあたしが成敗してやる!覚悟しろー! (親密度20~39) きゃあ!(オーナー名)!悪魔の宿ったその悪手…。あたしの必殺技でトドメを刺してやる!そこを動くなー! (親密度40~59) きゃあ!(オーナー名)…。そのいやらしい邪念…。あたしの清い心で吹き飛ばしてやる!くらえー! (親密度60~79) きゃあ!(オーナー名)…。あたしの不意を突くとはなかなかやるじゃないか…。つ、次はこうはいかないぞ!必ず正義の力でガードしてやるからね! (親密度80~) きゃあ!も、もう…。(オーナー名)だから大目に見てあげるけどさ…。他の神姫だったら怒られちゃうから、良い子は絶対にしちゃダメだぞ!あたしとの約束だ! 尻タッチ(親密度0~19) きゃあ!あ、現れたな!フシダラ妖怪!これ以上、被害が出ないよう今この場で叩きのめしてやる! (親密度20~39) きゃあ!ふ、不埒なハレンチ魔人め!これ以上、犠牲者が出ないよう今すぐここで封印してやる! (親密度40~59) きゃあ!こ、このドスケベ怪人め!この世の神姫はあたしが守る!今ここで打ち砕いてやる! (親密度60~79) きゃあ!で、出たなヘンタイ星人!ここまで侵入してくるとは!今すぐここでこのあたしが打ち滅ぼしてやる! (親密度80~) きゃあ!(オーナー名)…。も、もう仕方ないな…。ヒーローの弱点は秘密だから他の神姫にはナイショにしておいてくれよ…。 通常会話 (オーナー名)はあたしの戦い方を知ってるかな?重い銃はちょっと苦手だけどその分、機動性を活かして剣やライトガンで相手を翻弄する戦い方が得意なんだ。あたしの特性を上手く活かして輝く勝利をつかんでいこう! ヒーローはいつ休んでいるのかって?この星を脅かす悪の手先がいなくなった時…その時こそが静かに休める時なのかもしれないね…うんうん。 「ラヴィーナ」ってどんな意味か知ってる?ロシア語で「雪崩」って意味なんだって。なんだか物騒な意味合いだけど押し寄せる熱い正義魂…、と考えれば、まぁ…、納得もいくかなー。 この世界には数多くのヒーローがいるけど誰の必殺技を使ってみたい?かっこいい必殺技が使えるようになったら、バトルも華やかになるよね、きっと! うん?なんだい? 登場ポーズを考えてるんだけどどんなのがいいと思う?こうかな?こうかな?え?神姫にそんなの必要ない?えー!かっこいい登場と名乗り口上はヒーローの基本でしょ?! (オーナー名)のことをどう思ってるかって?あたしがこの美しい星のために戦っているのは(オーナー名)のためだからさ…っていやいやいや!?い、一体何を言わせるんだよ!もう…! あたしが好きなこと?それはもちろん、困っている人の力になることだよ!弱きを助け、強きをくじく…。この精神こそがヒーローの基本だからね! (オーナー名)。あたしに何かしてほしいことはある?世界平和のためなら、どんな巨悪にも立ち向かっていくから遠慮なく言ってよね! バトル前の変身ポーズってどういうのがいいと思う?ヒーローのお約束だからさ。やっぱりカッコよく決めたいよね? 目の前に困難がある限りそれに立ち向かう…。それこそヒーローにふさわしい姿だと思うんだ! 正義のヒーローって誰でもなれるんだよ。困っている人を助けようとする心がその魂にある限り…、ね! 武装カスタム 戦闘力Up時 戦闘力Down時 武器LvUP時 素体カスタム 親密度LvUp時 レベルアップしたよ!世界を救う力が、あふれてくるのを感じるよ! 限界突破時 うお~~~~~~~~~!あたしの中の正義の炎が!さらに燃えてきたぁ~~~~~~! 出撃時 入れ替え 勝利を胸に…必ず勝ぁーつ! バトル開始時 あたしのヒーロー魂、見せてあげる! → さぁ!ショウタイムの始まりだ! バトル中 撃破時 コンテナ入手時 コンテナ、ゲットだ! 被弾時 ピンチはチャンスだ!負けてられないぜ! オーバーヒート時 しまった!オーバーヒートだなんて! スキル発動時 (能力強化系) (HP回復系) (デバフ系) (攻撃スキル) チャーミークリアボイス 必殺!燃えろ!咆えろ!切り裂け!あたしの!正義! 被撃破時 みんな…ゴメン…!後は頼んだぞ…! あたしが倒れても…あたしの正義は倒れないからな! 次出撃時 たぎる闘志をパワーに変えて!ラヴィーナ見参! サイドモニター 応援時 頑張ってー! 交代時 ヒーローに涙は似合わないぜ 被撃破時 バトル終了時 1位 やったぁーーー!あたし達の勝利だぁーーー!世界の平和は守られたよーーー!! → 人類を愛し、平和を守る…それがあたしのヒーローストーリーだよっ! 2位 → 3位 → 4位 → コンテナ獲得時 1位 さらにコンテナもゲットしてるよ。これで戦力を増強しよう…! 2位以下 っと、でもでもコンテナはゲットしてるよ。これであたしたちも未来のヒーローだ! LvUP時 神姫親密度 今まで以上に頼ってもいいのかな。これからもよろしく。ふふっ。 マスターレベル 神姫ショップお迎え時 悪魔型ストラーフMk.2・ラヴィーナ参上ー!おっと、初めましてだね。これからよーろしくぅ!! 初めまして!会えて嬉しいよ!これからのあたしの大活躍、期待しててね! ゲームオーバー時 バトルお疲れ様!この世界の平和は、あたしが守るっ!って事で、次のミッションも、一緒によろしくね! その他 カラフルコンダクト この世界 あたしが守りぬくね カッコ良く 勝つのがヒーローだよ 戦おう あたしと平和のため 親密度○時イベントのオーナーの呼び方 マスター・司令・おっさん 神姫ハウス内コミュニケーション LV60~LV69 頭 胸 ステータス情報 親密度Lv1 ATK DEF SPD LP BST N R SR UR 親密度Lv100 ATK DEF SPD LP BST N - - - - - R - - - - - SR - - - - - UR 213 378 373 2381 531 マスクステータス 1/s ジェム回収展開速度 ブースト回復量 ダッシュ速度 ダッシュ時ブースト消費量 ジャンプ時ブースト消費量 対空時ブースト消費量 防御時ブースト消費量 N R SR UR 1205 140 140 110 150 覚えるパッシブスキル一覧 モード オブ サタン ラヴィーナ ver.攻撃スピード、クリティカル発生率アップ 早熟型のパターンで覚えるパッシブスキル ホーミング性能アップ[小]射撃時の弾のホーミング性能が上がる ジェムの出す量軽減[小]敵に攻撃された際に出すジェムの出す量を少なくする 攻撃力アップ[小]攻撃力を上げる 追加ダメージ軽減[小]敵からの追加ダメージを軽減する よろけ軽減[小]よろけの行動不能時間が短くなる 溜め時間減少[小] *要限界突破(L110)溜め時間を減少する 防御力アップ[中] *要限界突破(L120)防御力を上げる 通常型のパターンで覚えるパッシブスキル ダッシュブースト消費量減少[小]ダッシュする際のブースト消費を減少させる 攻撃力アップ[小]攻撃力を上げる 体力最大値アップ[小]体力の最大値を上げる クリティカル発生アップ[小]クリティカルが出る確率が上がる 防御力アップ[小]防御力を上げる 攻撃スピードアップ[小] *要限界突破(L110)攻撃時のスピードが上がる ブースト最大値アップ[中] *要限界突破(L120)ブーストゲージの最大値を上げる 晩成型のパターンで覚えるパッシブスキル 攻撃力アップ[小]攻撃力を上げる 防御力アップ[小]防御力を上げる ため時間減少[小]ため時間を減少する ダッシュブースト消費量減少[小]ダッシュする際のブースト消費を減少する ブースト最大値アップ[小]ブーストゲージの最大値を上げる ブーストアップ[小] *要限界突破(L110)ブースト時の移動スピードアップ ため威力増加[中] *要限界突破(L120)ため攻撃の威力を上げる 神姫固有武器補正 ※レアリティが上がる毎に得意武器は-5%、苦手武器は+5%される。数字はレア度Nのもの。 得意武器 +40% 防具用武器・回復補助 +30% 片手斬撃武器・双斬撃武器・両手斬撃武器・片手ライトガン・腰持ちヘビーガン・投擲武器 不得意武器 -30% 双頭刃斬撃武器・両手ライトガン・肩持ちヘビーガン 神姫考察 攻撃力 防御力 機動力 運用・総評 神姫攻略法 お迎え方 2022/2/10~から神姫ショップに登場 アップデート履歴 日時:2022.2.21 内容:FAPで追加された武器・防具を実装 コメント こいつちょこちょこ発言が卑しくなるな… -- 名無しさん (2022-07-31 13 44 47) 早熟タイプの限界突破後のパッシブスキルに誤りがあったので訂正しました。 -- 名無しさん (2024-03-17 12 58 30) 名前 コメント
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アルトアイネス奮闘姫 第一話「いりーがる?」 すでに人工知能が開発されて久しいが、軍事への利用を可能なAIは大国同士が核拡散失敗の反省を受けて非常に厳しく制限していた。しかし、優れた自己判断能力が規定外の使い方をされることは半ば予想され、実際に行われてた。 そんな中で民生品のAIを持つ日本の玩具、自立制御の高性能なAIを備えつつ、機能の拡張が容易な武装神姫はその一つに数えられていた。 武装神姫、それはわずか一五センチのMMSという技術を使用した女性型自律型ロボットである。本来玩具として発展したものであり、玩具の例にもれず、用途から外れた使い方は固く禁じられている。 もちろん、神姫のAIはそうした用途に使われないようになっているが、改造されればそうとは言えない。また型の古いモデルにはセキュリティの甘さゆえに違法改造がなされやすい。 改造された神姫は表向き、神姫同士の戦いにしか使用されてはいなかった。 「お兄ちゃん、どうしてそんな旧式のを買ってきたの!」 机の上で小人が怒鳴る。いや小人よりは妖精と言ったほうがいいだろう。 妖精の大きさは手のひらサイズ、淡い紫の髪に赤い瞳というのは一見、妖艶な組み合わせだが、髪は二つ小さなお下げに分けて、いくぶん子供っぽい髪型だった。顔つきもぷっくりとしたほっぺがなおさら幼さを引き立てている。着ている服は薄手の生地のハイネックに短いスカート、見る人が見れば、鑑賞ドール用の薄手の生地だとわかる。 彼女はMMS神姫、戦乙女型アルトアイネス、名前はメロン。名前の由来は、起動したときにそこにメロンがあったから、というあまりにも安直な由来である。 そのメロンに怒鳴られた相手、メロンの持ち主――オーナーであり、神姫はこの夏に始めたばかりの新人オーナー、勝見だった。 「旧式っていうけど、安かったんだからいいだろう」 「私に安い武装を使えって言うこと?」 理不尽な理由だが、睨み付ける視線には殺気がある。 勝見がなぜそんなアルトアイネスを選んだのかというと、アルトアイネスは最新鋭機だったからだ。武装神姫は新鋭機といえど、性能が極端に高いわけではない。神姫はレギュレーションにより、新旧の武装でも極端な性能差はありない。しかし、最近傾向や戦闘データがフィードバックされており、全体のバランスが高く、結果的に強力な武装神姫となるのだ。 しかし、そうであっても、経験の差はいかんともしがたい。武装神姫は今日昨日始まったホビーではない、古参ともなれば四年以上戦闘経験を持ち、その実力は高い。 そのための対策は大きく二つある。一つは神姫の実戦経験やトレーニングで能力を上げること、もう一つは有利な武装を揃えることだ。金銭的な余裕の少ない勝見は武装をそろえるのを半ばあきらめていたが、たまたま寄ったリサイクルショップで格安の武装を手に入れた。 それがこのメロンの不機嫌の元となっているのだ。 「しかも、このタイプって白いのじゃないの? 黒いのってどういうこと?」 「いや古いってのは知ってるけど。なんで黒いかはわからない、でもお前に似合うかなぁって思ってさ」 不満げな顔がわずかに赤くなる。 「似合うって……そんなのは次の次よ」 と言いつつ、勝見と視線を合わせていられない。メロンは照れ隠しが下手だった。 彼が手に入れたのは発売当初、黎明期の神姫の一人、天使型アーンヴァルの初期型、しかもリペインバージョンだった。本来であればプレミアがついてしかるべき製品なのだが、新古品として放出された上に店主が価値をよく知らずに売り、かつ勝見がよく知らなかった。ちなみに売り飛ばせば新品の神姫二体分くらいにはなる。 「それに安く、これだけの装備が手に入ったんだし、いいだろう?」 「確かにそーだけど」」 不満げな表情をしながらも、メロンの視線の先には黒く巨大なレザーライフルや黒いアーマーやウイングなどの武装をしっかりと捉えている。そのせいで口元が緩み、結構面白い表情になっている、しかし、メロン本人は気がつかない。 アーンヴァルはいまだに高い人気を誇る。特に初期型のアーンヴァルの装備はダウンチューンが行われたほど高性能なものがあり、公式大会ではハンデをつけられ、野良試合ではいまだに一級品の装備だった。 武装には問題がない。問題なのは別のほうだった。 「これでセット完了っと」 クレイドルで横になっているのは黒いアーンヴァル。長い金髪に黒い肢体、赤い塗装がアクセントが黒を一層引き立てる。本来の天使型という白いやさしいイメージとは真逆の印象を与える黒い天使。 「相談もなく新しい子を買うなんて、あたしを何だと思ってるのよ!」 そう、問題とは新しい神姫を迎える、そのことにメロンが怒っているのだ。いわゆる嫉妬である。 神姫というのはおもちゃであり、一人のオーナーが複数の神姫を所持することは珍しくはないが、神姫にとってオーナーは一人だ。 神姫心のわからないオーナーは複数の神姫を所持することはいろんな意味で危険だった。 その禁忌を犯そうというのか勝見よ、となるのかというとその心配はない、と勝見は思っていたのだ。今はカンカンに怒っていても。 「おお動いた」 セットアップを完了すると、アーンヴァルは目を開いた。 「この子、あたしと同じで目が赤いんだ」 なんだかんだ言いつつ、メロンは起動したてのアーンヴァルにくっついている。 アーンヴァルはぎこちない動作で立ち上がると勝見の方を見た。 「はじめまして、貴方がオーナーの真田勝見ですね」 姿こそ普通のアーンヴァルとは違っていたが、声はバトルで聞きれたアーンヴァルのものだ。 神姫の声はコアによって決まるので、ある程度は似てしまう。しかし、神姫はおのおのにその個性を持つのでオーナーは平気で聞き分けられる。勝見だって、一〇人くらいのアルトアイネスと混じってもメロンを見分ける自信はあった。 「よろしく、ほらメロンも」 「よ、よろしく」 さっきまでの勢いはどこに行ったのか、メロンはしどろもどろに言う。 「早速ですが、私の名前を決めてください」 「そだな、よし、メロン名前を決めてくれ」 「え……えええ!」 とにかく驚いた表情、でもその中に嫌そうな感情は含まれていなかった。 「姉になるんだから、それくらいはまかせる」 「あたしが姉……お姉さん」 頬がこれでもかというほど、ゆるむ。すぐにその場で腕を組んみあぐらをかいて考えるポーズ。勝見からは思いっきりショーツが見えてるが、指摘するとうるさいので黙っておく。 「……スイカ」 「よし、スイカな。、君の名前はスイカだ」 「って、いいの!?」 「わかりました、私の名前はスイカですね」 言い出したメロンが困惑するのを尻目に、メロンとスイカ、こうして新しい姉妹が生まれたのであった。 「そう、それでいい!」 腰に手を当てたメロンが言う。 メロンの目の前には着たばかりの洋服、Tシャツ(ケモティック社製)をひっぱってるスイカがいる。 起動したての神姫のほとんどのメモリは真っ白だ。基礎的な人格や常識は備えているものの、記憶の点では幼児よりも少ない。ところが、スイカの様子はいささか違っていた。 「これは一体何か?」 「なにって、洋服よ。それも知らないの?」 「わからない」 メロンは小さくため息をつく。スイカにはなぜか常識さえ十分に持っていなかった。 確かに起動したてだし、型の古い初期型だ。それでも神姫にはあらかじめ常識はあり、洋服を着るぐらいは普通にこなせるはずだ。 「これは動きを阻害する」 「しないって……あーもう、そんなふうに脱いだら服が破けるって!」 あわてて抑えるメロン、スイカは素直に従った。 「もう、そんなんじゃ私にも勝てないよ」 「勝つ? 戦う相手は敵。タイプアルトアイネスは敵なのか?」 真顔で言うスイカにメロンはがっくり肩を落とす。 「敵じゃないよ」 そうして、まじめな顔をしてスイカの肩に手を置いた。 「あたしは味方、絶対にね」 「うまくいってるか?」 そう言いながらドアを開けたのは勝見だった。 「あ、お兄ちゃん、ノックぐらしてよ」 「いや、ここ俺の部屋だし」 そういいながら、勝見は頭をかく。スイカが聞きてから、メロンの話し方は少し変わったように思えた。 「聞いてちょうだい、やっぱりスイカは常識がぜんぜんだよ」 そんなことを勝見が考えてるなど露にも思わず、メロンは続ける。 「常識なんてプログラムされてるはずだし、それに」 「ワルキューレタイプアルトアイネス、私に問題があるのか?」 「だから、そういう呼び方はやめなって言ってるでしょう!」 変わったのは別にいい意味だけではない。もともと高い声が、スイカが来てから頻度も加えて一層拍車が掛かっている。 「スイカ、オーナーとして命令だ、ワルキューレタイプアルトアイネスって呼び方はやめなさい」 「オーナーの命令を確認」 しばらく沈黙が流れた。天使型は優等生タイプと言われまじめな言動が多いが、いささかロボットじみている。 「なあメロン、生馬に聞いてみようと思う」 先に口を開いたのは勝見だった。メロンもなんといっていいかわからないような様子で同意する。 「うん、そだね」 「よう」 「いらっしゃい、まってたわ」 玄関で出迎えたのは熱海生馬。勝見の同級生であり、勝見に武装神姫を教えた人であり、メロンを薦めた張本人であったりする。容姿としての素質はいいほうだが、趣味に没頭するあまりオシャレっけはあまりない、いわゆるオタク女なので自分のことを気にかけていなかった。 生馬の肩に乗った天使型アーンヴァルのルーシェがメロンに手を振る。こちらは白のワンピースに黒いアクセントを加えた手作りの服を着ていた。派手さはないが、おとなしげなアーンヴァルの印象をうまく引き立てている。生馬に服のセンスがないわけではないのだ。 早速部屋へ案内される。メロンを起動させて以来、何度か訪れているので特に感慨はないものの、勝見は来るたびに感心はする。 その部屋は神姫一色に染まり、神姫サイズの家や洋服などが部屋の一角を専有している。 エプロンと耐熱手袋をつけたルーシェがお茶を部屋の中央のちゃぶ台に出すと、勝見はスイカを買った経緯とメロンの話を聞いた。 「話はわかったわ」 相槌をうちながら聞き終えた生馬は、整理された机の上のPCとクレイドルをつないだ。 「ちょっとクレイドルに乗ってね」 そういうとスイカをクレイドルにセットする。と言っても座らせるだけだ。 PCでデータを読み取り、MMSサポートセンサーに問い合わせる。すぐに応答があり、検査結果が表示される。 「……あれ?」 検査結果を見て、生馬は首をかしげた。 検査のデータは、スイカを初期型の白子、ノーマルバージョンと示していた。 「この子って中古なの?」 「いや新品だったぞ、なあ?」 「うん、新品だったよ」 勝見はメロンと顔を見合わせる。封を開けたとき、確かに未開封だった。 「じゃあ、何でリペイントされてるのよ?」 スクロールして他の結果も見る。すると検査結果には何箇所か不明の文字が浮かんでいる。 「もしかしてこれって……違法改造?」 一応櫛くらいは通してあるらしい短い髪が傾く。 「ごめんなさい、これ以上はわからない。神姫センターに行ったほうがいいわ」 そういって、ルーシェの淹れてくれたお茶に口をつける。 「違法改造といえば、この話は知ってる?」 生馬はスイカをちゃぶ台に返す。スイカにメロンが近寄った。 「三年前になるけど、大量のイリーガルが回収された事件があったのよ」 「話ぐらいは知ってるけどな」 勝見は言った。横目でルーシェを見ると小さく頷いている。たぶん、ルーシェもかかわったのだろう。 「そのときにほとんどのイリーガルは回収されたんだけど、アリスって天使型だけが相当数、逃げ延びたって話なのよ。そのときの生き残りかも……でもアリスは白いアーンヴァルだし」 生馬は倒したアリスを思い出した。彼女は見た目こそルーシェと同じ格好をしていたが、目つきも言葉遣いもまるで違った。愛らしさというものがまるでなく、ただ戦うことを生きがいにする人形。 スイカもアーンヴァルにしては変わっているが、しかし、アリスのような悪意は感じられない。 「……とにかく用意をして行きましょう」 「わかった、スイカ……って、いない!?」 「どこに行く?」 「いいからついて来て!」 隙を見て部屋を抜け出した二人は、生馬の家の台所に逃げ込んだ。ここには隠れる場所が多い。 「スイカはわからないの? 下手に連れてかれたらたぶんリセットされる、いや、悪いと廃棄されちゃうよ!!」 当時の事件を直接は知らないメロンは、神姫センターがどういった対処を行ったかを詳しくは知らない。しかし、どうされようと、スイカがいなくなっていまうだろうという予想はできた。 「とりにかく、お兄ちゃんと生馬さんを説得するまで隠れてて」 「それは命令か?」 メロンは小さく首を振る。 「ううん、お願いよ」 メロンはスイカの表情を見る。いつもどおりの無表情。そんなスイカだったが、メロンはやさしくいった。 「大丈夫お兄ちゃんたちは必ず説得する、私はお姉ちゃんなんだから」 言うが早いか、メロンは駆け出した。 「……わかった、隠れている」 そのとき初めてスイカに浮んだ表情をメロンは見逃してしまった。 探すと、すぐにメロンの方は見つかった。というよりもメロンのほうから出てきた。 「メロンちゃん、どこ行ってた? あのイリーガルはどこ?」 「お兄ちゃん、生馬さん、スイカをどうする気?」 「どうって……」 「私はお姉ちゃんだから、スイカを守る」 スイカを妹として、姉になるメロン、買った時に勝見はそのシナリオを考えていた。しかし実際にメロンがそれをはっきりというと勝見の心は暖かくなる感じがした。 しかし、今は余韻に浸っている時間はない。 「ちょっと待て、スイカ。それは勘違いだ」 「そう、従来型のイリーガルならセンターに問い合わせた段階でわかるわ」 そう続けたのは生馬だった。 「イリー……スイカがどう違うのか、実は私にもよくわからないの」 困惑した表情の生馬だったが、まだメロンの視線は貫くほどきつい。 生馬はメロンに説明する。今のところわかるのはスイカが何らかのエラーを抱えているということ、そのエラーの正体さえわかれば、スイカが今のような性格なのかがわかる、ということをメロンに伝えた。 「それが人為的なものである可能性は高いけど、どれくらい深刻なものなのかは私にもわからないのよ」 人為的な神姫の改変、それは一般的にイリーガルと呼ばれている。 イリーガルは公平なバトロンを阻害し、対戦相手の神姫への危険も大きい。 しかし、神姫への改造は当初から行われている。当初は髪型や目の色、体系など見た目だけだったが、それがコアの改変まで行われるのにそう長い時間はかからなかった。 イリーガルと一般改造の間はあいまいになりつつあり、改めで明確な基準が定められた。それに基づけば、過度な改造が行われているスイカも問題はないはずだった。 「お兄ちゃん約束して、スイカは私達のところから連れて行かないって」 「当たり前じゃないか」 「約束して」 「約束する」 納得したメロンはスイカを呼び、一緒に神姫センターへ向かった。 神姫センターで検査の結果は真っ黒だった。
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前へ 先頭ページ 次へ 第九話 拉致 レヴ・アタッチメント、ビックバイパーを纏った飛行形態のルシフェルは、アフターバーナー全開で専用緊急出撃ダクトを飛び抜け、屋敷の前庭中心にある噴水から躍り出た。 陽動、兼、殲滅役を仰せつかったルシフェルの出撃はトンネルドンにより腹に響くような轟音を起こしたから、その存在は屋敷に対して破壊活動を働いていた一つ目ども、メタトロン・プロジェクトの試験量産素体である、ラプターと呼ばれるそれらの一躍知るところとなった。無数の赤く灯るアイボールが、ぎょろぎょろと彼女を注視する。 ファースト・トップランカー神姫である彼女でさえ、通常装備では一つ目どもと戦うどころか有効な一撃を与えることさえできなかったか知れない。 今はこの俊敏な鎧がある。レヴ、つまり活性化、回転増加、の意を持つこのアタッチメントセットの名は伊達ではない。特に既存技術の粋を集めて造られた自らのビックバイパーは、OFアタッチメントに匹敵する性能をたたき出す。 隼のように飛び回る異形の戦闘機の出現に、一つ目どものコンピュータが混乱しているのがルシフェルには分かる。なにしろ奴らにとっては普通の武装神姫がありえない高速で飛び回っているのだ。戦闘能力には感情回路が不可欠であることはルシフェルも知っている。ラプターにも簡易的であるにしろ感情回路は搭載されているはずで、この混乱によってそれが明らかになった。 勝てる。ルシフェルはあらためて確信した。強固な確信である。 ギュビィー! 二股に分かれた彼女の機首、つまり内股に当たる部分から、高電圧音とともに二条の青白い収束レーザービームが照射された。秒速三十万キロの光条は回避を許さない。 照射しながらルシフェルは急激なロールを行い、機首の向く先にある五体のラプターを撫で見る。つまりレーザーの射線がラプターを横切ったのであって、その五体の一つ目どもは瞬時に真っ二つに溶断された。切り口を赤熱させながら墜落。 仲間を撃破された光景を分析したのか周囲の一つ目どもがルシフェルの機首を避ける機動を見せた。 そのような動きは予測済みである。 パシュシュシュッ 主翼の放出口より小型の誘導弾頭を射出。機体よりもはるかに高速で推進するミサイル群は正確にいくつかのラプターに飛来。撃破する。 弱い。ルシフェルは無感動に感想を抱いた。 こんなのがメタトロン――神の代理人――とは笑わせる。自分はおろか、ましてやミカエルごときよりも上位の天使の名を持つとはおこがましいにもほどがある。自分が名乗るべきとは思わないが、少なくともこいつらが名乗ってよいはずはない。 周囲を見やる。OFイクイップメント・アージェイドを着たアーンヴァル「ミカエル」、ビックバイパーよりも下位の量産試験型レヴ・アタッチメント・ファントマ2を二セットも搭載したサイフォス「ジャンヌ」でさえ、苦戦している様子は見られない。 まったく直感的に、こいつら、ラプターどもはメタトロンなんかじゃない、とルシフェルは感じた。一つ目どもはメタトロンの中核などではないのだ。おそらくOFイクイップメントをどのように武装神姫になじませるかという実験の上で作られた、ただのボディにすぎない。 何がメタトロンかとすればここにおいてはアージェイドなのだろうが、それを着たミカエルが自分に勝てたためしは、数え切れないバーチャルバトルと幾度のリアルバトルを経たテストにおいて、数パーセントしかない。その数パーセントはランダムな要素で、ランダムな中でも挽回できる状況がほとんどであった。 実戦経験の長短を差し引いた純粋な性能アドバンテージから見ても、このビックバイパーにアージェイド・イクイップメントは対抗しきれていないのだ。あくまであれはOFアタッチメントの開発段階で派生した余剰物らしく、試供品として送られてきたのもうなづける。 では本当のメタトロンは何か。 とすれば、あのクエンティンとかいうどこの馬の骨とも知れぬセカンド風情と融合している、ジェフティでしかない。 それ以外のメタトロンは偽物だ。 だと言ってルシフェルは、クエンティンをメタトロンとは認めたくはなかった。メタトロンはあくまでジェフティ、エイダ自身であり、クエンティンはエイダの性能を完全に引き出す触媒にすぎない。触媒は武装神姫であればなんだっていいのだ。 自分であっても問題はないのである。 危険な考えだ。おそらくマスターは、鶴畑興紀はそんなことは許さないだろう。無断でクエンティンから引っぺがそうとすれば、いまの自分は廃棄される。戦闘実績や有効な装備など、あらゆるアイデンティティをもぎ取られて。その後何十体目、もしかしたら何百体目かもしれないルシフェルが、自分に取って代わるのだ。 ルシフェルのプライドが刺激されていた。そのプライドも、アイデンティティも、過去数え切れないルシフェルから引っぺがしてきた借り物にすぎなかった。装備の一つたりとも、記憶の一片でさえ他に譲渡するのは我慢がならなかったが、それらに絶対的な自己は収められなかった。 重い。過去のルシフェルの遺物を全身にくっつけられている重みだ。この重みがもどかしかった。 きっとクエンティンからエイダを引き剥がして自分に融合させたところで、ただ重みが増すに違いない。二人ぶんの重みは背負いきれない。背負うのは自分自身のだけで十分だ。 私はルシフェルであり、その名を誇りに思うのだ。いつか廃棄されるその日まで。 廃棄されること自体に恐れはない。棄てられるならば、この自分の重みをそっくり次のルシフェルにくれてやる。 むしろ気がらくだ。だからと言って今すぐに廃棄されたいという意味では決してない。いま自分は生きている。生きているならば必死になって生きるのが生きている者の義務というものだ。 生きている、か。 こんなことをマスター、鶴畑興紀に言えば、やはりその瞬間廃棄されてしまうのだろうなと、ルシフェルは思った。彼は武装神姫を生き物とはみなしていない。生き物ではない物が、「自分は生きている」などと言い出したら、バグっている、壊れているということだ。 壊れている道具など要らん。いくつか前のルシフェルがこう言い渡されて捨てられた。うっかり口を滑らしたからだ。余計なことは言わずに従うほうが面倒にならないことを今のルシフェルは知っている。捨てられる理由としてどうにもならないことだってあるが、そうした原因以外、予防できる原因はしっかり予防しておくのが一番だ。 ルシフェルはうっかりで死にたくなどないし、野良神姫にもなりたくなかった。野良神姫は駆除される。拾われることもあるが、よっぽどの強運の持ち主でなければまず無い。そんなことになるくらいだったら今の環境下が一番だ。 彼女は面倒が嫌いだった。だから自分は生きているなどと主張せず、ただ黙々と従うのである。「イエス、マスター」と連呼して。 「モードチェンジ――」 『mode change』 ルシフェルがつぶやくと同時に、ビックバイパーに内蔵された支援AIが復唱する。音声入力というわけではないが、定められたプロセスを確実に実行するためルシフェルはいちいち声に出して言うことを心がけている。 ボディ各所のロックが次々に解かれ、手足が自由になる。バックユニットが頭上を介して背中に回り、フロントアーマーがヘルメットをカバーする位置から離れて胸のところへ収まる。 くるりとスプリットSの要領で反転すると、ルシフェルはもう人型形態になっていた。 一つ目ども、ラプターが群がってくる。 「遅いわ」 垂直尾翼を兼ねていた彼女の両腕の先に金色の粒子が集まる。 最後のラプターの首をちぎり取る。 「状況終了」 興紀に報告する。 浮遊しながら、ルシフェルは屋敷を見つめる。各所が崩れ落ち、煙を上げているところもあった。建て直さねばならないだろう。老朽化していたからちょうど良いとマスターは言うだろうか。 興紀からの返答がない。いつもならすぐに「よくやった」なり「戻れ」なり言ってくるはずなのに。 眼下の二体もおろおろしている。 「マスター……?」 通信装置の感度を上げようとしたその時。 ギュバッ! 異音。 傍らに最大限の脅威。 反射的に離れようとブーストしようとする。 が、ぐぐっ、と伸びてきた二本指の腕が彼女の頭部を瞬く間に捕らえると、ルシフェルの頭はこの世のものとは思えない激痛に襲われた。 「ぐ、ああううっ!?」 頭を握りつぶされてしまいそうなほどだった。だが武装神姫は本来握りつぶされる段階で頭痛など感じないはずだ。この二本指からワームのようにただ容量を増やすだけの無駄なデータが自分の陽電子頭脳に流入し、処理を圧迫しているのだ。 二本指の主。ジェフティ――エイダに似た、狼のようなヘッドギアをかぶった神姫が目の前にいた。 こいつが、アヌビス――デルフィか。 ルシフェルはこの上ない畏怖を覚えた。あのジェフティとは比べ物にならない威圧感。 こうして対峙するだけでその性能差が絶望的であることは、百戦錬磨のルシフェルには皮肉にも手に取るように分かってしまった。 頭を拘束されただけで、勝てないと分かる相手。 ただのイクイップメントが、どうしてここまで強いのか。 アヌビスをまとっている神姫は、顔こそ見えなかったが、その雰囲気は既存の武装神姫のどれでもなかった。 ルシフェルはすぐに知った。こいつはイクイップメントなんかじゃない。 この神姫そのものがアヌビスなのだ。 相手は冥界の神の名を持っていた。神には勝てない。 「おまえが、メ、タ、ト、ロ、ン……か」 ルシフェルは今確実に、目の前の神姫がメタトロンを名乗るに相応しいことを認めた。メタトロンという名は時には、神と同義になる。 流入する負荷が限界を超え、ルシフェルの意識は強制的にシャットダウンされた。 ◆ ◆ ◆ 完全武装の兵士達に、理音たちは包囲されていた。 屋敷へ通ずるエレベータが開き、中から悠然と歩いてくる男が一人。 「ノウマンだな」 何の感動もないように、興紀は言った。 理音はその男をよく見た。 服装はどこにでもあるようなフォーマルスーツを着ていた。が、その男の大きな特長はその目にあった。 虫を見ているような目だと、理音は思った。 口をニィ、と引きつらせて、ノウマンは笑った。 「その神姫を渡してもらおう」 クエンティンを指差して、言った。 流暢な日本語だった。 こんなにも冷たさを感じる声は聞いたことがなかった。 クエンティンは激昂して飛び掛りそうだったが、理音が制した。クエンティンはその場に浮遊したまま動かなかった。 「私のクエンティンをどうするつもり?」 銃を突きつけられたまま、理音は訊いた。 「彼女、クエンティンはすばらしい個体だ」 ノウマンは言った。 「我々は武装神姫に人権を与えるために活動している」 意外な答えであった。理音はもちろんのこと、鶴畑興紀も驚きの色を隠せなかった。 「貴様らは、メタトロンプロジェクトを他社に売るために活動しているのではなかったのか」 興紀の問いに、ノウマンはにやりと笑みを浮かべることしかしなかった。 理音はノウマンに対して、意外な人間を目の当たりにしているような実感だった。 この男の言うことが本当ならば、この男は、武装神姫をれっきとした知性体として認識していた。自分と同じく。 ノウマンはクエンティンを「彼女」と呼んだ。 「こんな過激なやり方で、神姫に人権が認められるとでも思っているの?」 「過激でなければならないのだ」 ノウマンはクエンティンの方に近づきながら言った。 「このまま悠長に法律改正を待っていたら、いつまで経っても神姫には人権は認められない。神姫は商品として作られたのだ。この根本を是正しなければ、神姫の未来は無い」 理音は黙って聞いていた。 「これ以上妨害活動をされても困る。君たちにも来てもらおう」 「お姉さまたちは関係ない!」 クエンティンが叫び、飛んだ。目指す先はノウマン。 兵士達の動きがこわばった。 が、クエンティンはノウマンの目の前で止まった。 ノウマンは眉一つ動かさなかった。 「アタシだけが必要なんでしょう。お姉さまたちはこのままでも――」 言い終わる前に、クエンティンは強烈な電撃を受けていた。 「クエンティン!」 理音が兵士の拘束のなかでもがいた。クエンティンは理音の目の前で意識を失い、堅牢そうなアタッシュケースの中に入れられた。 「連行しろ」 理音と鶴畑兄弟は、まるで犯罪者のように手錠をかけられ、連れて行かれた。 エレベータに乗せられる直前、理音はふと気づいて辺りを見回した。 いつの間にか、執事の姿は消えていた。襲撃されたときには、もういなかった。 ドームは無表情な脳無し神姫たちが、何事もなかったかのように飛び回っている。 ◆ ◆ ◆ 強制リブートをかけられて、ルシフェルは覚醒した。 冷たい雪が背中の触覚センサーに感ぜられた。 自分を見下ろす一人の人間にルシフェルは気がつく。 執事が立っていた。 「ルシフェル。非常コード009発令のため、マスター権限をわたくしに緊急委譲」 「イエス、マスター」 それで、自分が停止しているあいだ何が起こったのか、大体の見当はついた。 後悔している暇など無い。 ルシフェルはむっくりと起き上がった。 つづく 前へ 先頭ページ 次へ
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記憶と記録の違いは、追随する感情の有無だというのをどこかで聞いた事がある 少なくとも、私達神姫にとっては、それはある種の真理なのだ 神姫が人間によって、「人間の似姿」として作られた人造の人間であるならば、人間と同じ様に哲学的な物思いに耽る事も必要な事とされたのだろう 「華墨、それから、佐鳴武士と言ったわね。ヌルのマスターであると同時に槙縞ランキング11位のランカーとして貴女達をマークさせて貰うわ」 それは鮮烈な記憶だった 「私はニビル。〈神の星〉暗黒星ニビルよ。槙縞ランキングへようこそ、おふたりさん!」 このシーンは、私の中に得体の知れない、何か強烈な感情をもたらしていたのだ それも、私が「華墨」として目覚め、「華墨」という個性を獲得してから感じた中で最大級の 「ヌルのマスターであると同時に槙縞ランキング11位のランカー」だと・・・? 神姫が神姫をマスターと認識するものだろうか? 逆に、神姫が神姫を所有したいと思うのだろうか? この世界に目覚めて間が無く、私達以外の神姫もマスターも余り見ていない私には判りかねる難題だが、少なくともあの赤い靴の神姫は事実「そうしている」様であった 私の中で問題となっているのは言葉か?神姫か? 今もってそれは不明だが、少なくともこの感情の故に、この記録は強烈な記憶となって私の中に焼き付いている 「・・・もしかして私は・・・」 私も、ニビルの様に神姫を所有したいと考えているのだろうか?それとも・・・? 第肆幕 「THE FIRST CRY IN HADES」 「槙縞ランキング」は、現在皆川彰人氏が店長代理を務める「槙縞玩具店」に集まる神姫の間で自然発生した地元リーグである 所謂「草」というやつで、現在、入りたての私とヌルを含めて21名のランカーが所属している パーツも満足に揃わない田舎のリーグの常として、始まったばかりの頃は本当に数名の神姫達によるささやかな遊びだったのだが、ここ2,3年の神姫ブームの到来によって、実質町内で唯一のバトルスペースである店に多くの客が集まる事となったのだ とはいえ、愛玩派マスターが気紛れで来て、一度登録したきり滅多に来ない・・・という事もままあり、実質ランカーとして機能しているのは14~5名程であると見られている うちのマスターはばりばりのバトル派なので、暇さえあればほぼ毎日の様に通い、私もまた、あの時感じた感情の正体が判るかも知れない期待と、闘争本能から、ここ1週間で既に3勝を経験するに至っていた (・・・とは言えなぁ・・・) 私の初戦、あれは明らかに「辛勝」というやつだった。ヌルは性格に難があったし、実戦はあれが初めてだったのだろうが、何らかの戦闘訓練を積んでいるというのは判った 神姫の「パッケージに詰められたデフォルト装備と言うのは素体との相性を考慮した上で選別されており、思いのほか高いバランスでまとめられている」という至言があるが、裏を返せばそれは、「いきなりデフォルト武装と異なる武装をして巧く立ち回れる神姫というのはなかなか居ない」という事でもあるだろう 一応私は勝ちはしたが、少なくとも、ヌル以後に闘った神姫達にはヌル程梃子摺りもしなかったし、逆にもう一度ヌルと闘っても、楽勝出来るとは全く思えなかった (そう言えば結局あの感情もあれ以来感じていないな・・・) 今にして思えばその感じも曖昧になって来ている・・・初めての戦闘で、異常に緊張して、それで妙な高揚感を感じたのかもしれないな・・・という疑念すら感じているのも、また事実だった 今日もまたマスター共々相手を探して槙縞玩具店に来ている・・・ 「えっ?戸樫君来てないの?リターンマッチするっていってたじゃん!?」 「なんでも急用が出来たとかで来れなくなったらしいんだ。まぁ約束を破るのは良い事ではないが、人それぞれ事情があるのもまた事実だ・・・今回は仕方ないだろう」 マスターと店長が話し込んでいる・・・私は、未だ売れ残っている多くの「紅緒」達が置かれている陳列棚に座り、考え込んでいる 「くそ~・・・今回のバトルに備えて神姫について色々勉強してきたのにな~・・・バトルしたいぜ!皆川さん」 「そうは言っても相手が居ないのでは仕方が無いだろう?駄々をこねるものではない」 「否!一人いるじゃねーか皆川さん!キャロだよキャロ!皆川さんとこのキャロちゃんと闘わせてくれよ!!」 「それが出来るのならそうしている・・・キャロラインは闘えないんだ」 「なんでさ!?」 我侭だなうちのマスターは。済まないな店長、そんなのの相手させて 「どんなにがなっても1が2になる様な話はないさマスター・・・今日は日が悪かったんだろう?なら諦めて帰るのも一つの手ではないのか?」 『そこ、どいてくれるかな?』 「でもよぉ華墨?お前だって結構乗り気だったじゃねーか?」 『通して欲しいんだけど・・・』 「それはそれ、これはこれだよ・・・済まないな店長。うちのマスターはこういう所は本当に幼稚園児並みのようだ」 「ちょっ・・・!?華墨てめぇ!!」 「聞えないの?低脳コンビ!ホントもう耳か脳が腐ってんじゃないの!もう!!」 突如かかった高飛車な一喝に、私もマスターも驚いて振り向く 小柄なショートカットの少女・・・なんとなくだがストラーフがそのまま人間サイズになった様な印象を受ける・・・が無表情で突っ立っている 手には神姫の拡張パーツ。買い物に来ているようだ だが、声は彼女のものではなく、彼女の肩の上でいかついレザーのロングコートを着てふんぞり帰っている神姫・・・第四弾、「ジルダリア」だ・・・が放ったものであった 「いらっしゃい、神浦 琥珀君、『エルギール』君」 店長だけは彼女らの存在に気付いていたようだった 「成程・・・アンタ達がニビルが言ってた『新入り』ってワケね?なんか冴えない面構えしてるわ」 ふん、と鼻で笑いつつ私たちを偉そうに値踏みする「エルギール」根本的に高飛車な性格らしい 「今迄4戦4勝?まぁ、愛玩系に毛が生えた程度の連中相手じゃぁね」 「エルギール、ちょっと言い過ぎだよ」 ハスキーな声で冷静にたしなめる神浦さん。どうやらうちとは逆に、神姫が一方的に喋ってマスターが突っ込むペアの様だ(誰だ今「(゚Д゚)?」って顔したのは) 神浦 琥珀・・・と呼ばれた少女が、覗き込んでいた端末から顔を上げる 「どうだろう?闘いたいのなら僕達とやってみない?」 「いいのかよ?」 「ちょっと琥珀?何勝手に決めてんのよ!?」 同時に声を上げるマスターとエルギール。とは言えマスターは、ここで相手が「やっぱりやめた」って言ってもやりたがるだろうし、エルギールも何のかんの言ってやる気のようではあった 「うん・・・本当はこういうのはニビルの役なんだけど・・・いいよ。僕達が相手だ」 含みのある言い方だ。なんだろう?この胸の内側を羽毛で撫でられる様な感じは・・・ 「おっけい!勝負だ!!」 特に何も意に介した様子も無く、マスターは勢い良く立ち上がった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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performer -登場キャラクター紹介 near to you ■主な登場人物 ○有馬 駿(シュン) ARIMA Syun Age14 関東圏の摩耶野市住む男子中学生。怪しい神姫売りから神姫を買ったことで神姫「ゼリス」のオーナーとなる。はじめはゼリスに戸惑いを隠せなかったが、徐々に彼女を理解していく。 ○伊吹 舞 IBUKI Mai Age14 シュンの幼馴染の元気女子中学生。神姫「ワカナ」のオーナーで地区ランキグの上位ランカーという実力者。関節技が得意で、シュンはいつもイケニエに。 ○有馬 優(ユウ) ARIMA You Age11 シュンの妹。小学生ながら神姫に対する知識は深く、以前出会ったある人物に憧れて、神姫職人を夢見るようになった。現在夢への第一歩として、ゼリスの専用武装を製作中。 ○和光 耕一 WAKOH Kouichi Age15 種型神姫チカのオーナー。都内の名門私立に通う中学生。 実家は多くの音楽家を生んだ名家で、彼自身も一流の音楽家になることを目指している。 ○伊吹 神楽 IBUKI Kagura Age20 都内の大学に通っている舞の実姉。現在独り暮らしだが、実質大学の研究室を寝床としている。美人だが、ストイックな研究バカであることから特定の交際相手は未だにいない。 ■主な登場神姫 ○ゼリス(ゼリシス) ZERIS Zerisis zweit 【TYPE ORACION】 Arms PEGASUS TYPE MMS シュンがオーナーとなった武装神姫。褐色の肌と蒼いポニーテール、エメラルドの瞳が特徴。最初からCSC・コアユニット・素体が完成済みなど謎が多い。が、本人は特に気にしていない模様。 バトル時には有馬優の作製したハンドメイド武装、天馬型オーラシオンを纏う。 性格は冷静、真面目かつ、天然(本人の自覚無し)。 趣味は読書と情報収集。 ○ワカナ WAKANA 【TYPE MAOCHAO】 Arms CAT TYPE MMS 舞がオーナーの武装神姫。亜麻色のオカッパ頭とアホ毛が特徴。幼い性格に反して戦闘能力は高く、舞と共にローカルランキングではあるものの上位に名を連ねる強者。 好奇心旺盛で、趣味はお昼寝。 ○チカ CHIKA 【TYPE JUVISY】 Arms SEED TYPE MMS 耕一がオーナーの武装神姫。清楚な外見に、音符をあしらった髪留めがワンポイント。音楽家を目指しているオーナーの影響で、彼女自身もヴァイオリンの演奏はかなりの腕前。 ゼリスとは電子メールを通して知り合った。 礼儀正しく、お淑やかで、彼女も一流の音楽家になることを夢見ている。 ○フィシス FISIS Fisis einst 【TYPE TITANIA】 Arms SPRITE TYPE MMS ゼリスが神姫センターで出会った白い神姫。 薄明の薄紫に輝く銀糸の髪に、真紅の瞳を持つ、最新世代型の武装神姫。 神姫センターのアイドルユニット「ブルーメンヴァイス」のリーダーで、歌と踊りと笑顔を愛する。 趣味は歌と情報管理。ときどきおかしな電波を受信してしまうのが、悩み。 戻る
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新米神姫オーナー、加奈美。新米神姫、シルフィ そしてその友人達との平平凡凡日常物語 著/神姫愛好者 スロウ・ライフ プロローグ スロウ・ライフ 1話 スロウ・ライフ 2話 スロウ・ライフ 3話 スロウ・ライフ 4話 スロウ・ライフ 5話 スロウ・ライフ 6話 スロウ・ライフ外伝 「Happy New Year」 ※狛犬はうりん劇場及び妄想神姫と(一方的に)コラボです スロウ・ライフ 7話 スロウ・ライフ 8話 オリジナル設定 【 sm スケールメートル 】 1メートルを神姫の縮尺で表した単位 10cmがおよそ1sm 登場人物&登場神姫紹介 研究室一覧 戦う神姫は好きですか web拍手 最終更新日 2008年06月17日 (火) 13時57分19秒 - -
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キズナのキセキ ACT0-5「敗北の記憶 その1」 ◆ 春。 今年も、桜は満開に咲き誇っている。 桜並木の下に、久住菜々子は佇んでいる。 はらはらと舞う桜の花びらに、通りの向こうが霞んでいる。 ミスティは、菜々子の足下にいる。フル装備で、手に大剣を構えている。 音もなく舞う、薄紅色の花びら。 桜はこんなにも美しいのに、夢のような光景なのに、寂しさを感じるのはなぜだろう。 菜々子はブレザーの肩に掛かった花びらを、そっと払う。 高校二年生になった。 この春から、あおいお姉さまは、いない。 桐島あおいは、県外の大学に進学した。アパートで一人暮らしをするという。 『ポーラスター』で、毎日タッグマッチをすることはできなくなった。 『二重螺旋』は事実上の無期限の活動休止だ。 少し寂しくはある。 しかし、お姉さまが大学に進学することは、むしろ喜ぶべきことだ。 だから、別れの時には、笑顔を贈った。 「長い休みの時には必ず帰ってくるから。そしたらまた、タッグを組みましょう」 お姉さまはそう言ってくれた。 あおいお姉さまは、新しい場所でも、武装神姫を続けている。 ならば、菜々子も続けなくては。さらに強くならなくては。 足下にいたミスティが、不意に、動いた。 滑るように地を駆け、舞う。 素体の方が握っている大剣が振るわれ、刃風に桜の花弁が舞い散った。 「……やっぱり難しいですね」 動きを止めたミスティが呟く。 足元に落ちた、いくつかの花びらを見つめている。 刃に触れた数枚が、両断されていた。 しかし、ミスティにとって満足のいく結果ではなかったらしい。 「でも、完成すれば、強力な武器になるわ。切り札として……必殺技として使える」 「はい」 菜々子とミスティが二人で考えた、その技の練習に、ここへ来ていた。 とらえどころのない花びらをとらえる。 それが出来るようになった時、彼女たちはまた少し強くなれる。 ◆ 三月の終わりに、菜々子はあおいとバトルした。 あおいは、大学に通うため、この街を離れる。 お姉さまが側にいてくれた日々の終わり。 その終止符としてのバトルだった。 「真剣勝負でお願いします」 そう望んだのは菜々子だった。 あおいお姉さまと出会って二年以上。 いまだ一対一の真剣勝負で、あおいお姉さまに勝てた試しがない。 あおいはいつものように微笑みながら、頷いた。 その日も、ミスティは劣勢に追い込まれた。 それでも、今までで一番持ちこたえているくらいだ。 ルミナスの容赦ない攻撃を捌きつつ、チャンスを待つ。 そして、菜々子の脳裏に唐突にひらめいた。 『いまよ、バックジャンプして、前に出てひっかく!』 そんな指示で分かる神姫がこの世にいるだろうか。 ミスティも菜々子の指示を理解しているわけではない。 考えるより早く、反射的に身体を動かす。 ミスティは大きく後ろに跳ねて間合いを取る。 対するルミナスは、ミスティを追って突っ込んでくる。 ミスティはバックジャンプの勢いを膝で吸収すると、その反発を開放し、前に出た。 それはまるで、はじき出された弾丸のような超加速。 ルミナスの表情が驚愕に彩られる。 バックジャンプしたのは、間合いを取って体勢を立て直すため。そう読んでいた。 意図がはずれたルミナスは、あわてて剣を構える。 ミスティが迫る。 チーグル・サブアームを上げ、凶悪な爪を振りかざす。 「うあああぁっ!」 すれ違いざまの一撃は、ルミナスの不完全なガードを突き破り、武器と翼を引き裂いた。 ルミナスより早く着地したミスティは、反転し、着地の勢いを借りて再びダッシュ。 墜落するルミナスに、抜き手の一撃を見舞う。 それが勝負を決めた。 ルミナスの胸部が、ミスティの必殺の抜き手によって、貫かれていた。 「勝った……」 長く待ち望んでいた勝利。 菜々子は信じられない気持ちで呟く。 その瞬間、周囲で歓声が沸き上がった。 いつの間にか、多くのギャラリーが、二人の対戦を観ていた。 ミスティの逆転劇に、誰もが驚嘆し、そして賞賛している。 菜々子は正面に座るあおいを見る。 彼女は、呆然としたまま、身動きもしていない。 そんなに驚くことだろうか。 いや、自分も信じられないほどのことだ、お姉さまはもっと驚いているに違いない。 菜々子は席を立つと、あおいの側に立った。 「お姉さま、ありがとうございました」 「え……? あ……ああ……菜々子……」 いまだ心ここにあらずと言った様子のあおい。 頭を下げる菜々子の潔さに、周囲から拍手が起こる。 そこであおいはやっと我に返った。 「菜々子……強くなったね」 「そんな……今日のは、たまたまです」 「いいえ、菜々子もここまで来たんだって、思った。パートナーが強くなってくれて、わたしも心強いわ」 そう言って、あおいは笑う。 菜々子は照れたように頭を掻いた。 しかし、あおいの様子はなんだかおかしい。 いつも見せるのとは違う、戸惑ったような笑顔に見えた。 ◆ 桐島あおいが『ポーラスター』を去って二ヶ月が過ぎた頃。 菜々子はあおいと連絡が取れなくなった。 ゴールデンウィークくらいまでは、毎日のように電話をしたり、メールしたりしていた。 連休の時には、一度こっちに帰ってきて、菜々子と二人で久しぶりのタッグバトルを楽しんだ。 しかし、その後から、徐々に連絡を取り合う回数が少なくなった。 あおいがあまり返事をよこさなくなってきたのだ。 そして、六月の初旬。とうとう、連絡が途絶えた。 メールを何通送っても、返事がない。 心配になって電話をかけたが、そもそも携帯端末の電源が切られているようだった。 あんまり心配だったので、あおいの実家に電話をかけた。 電話先に出たのはあおいの祖母で、養母とも言える人だ。 対応は素っ気なかった。おそらく、あまり連絡を取り合っていない。家を出たあおいを、放任しているようだった。 あおいの大学まで押し掛けようか、とも考えたが、女子高生にそこまでの時間的、金銭的余裕がなくて、断念した。 それでも菜々子は、毎日メールを送ることだけは続けた。 いずれ、お姉さまが読んでくれれば、必ず連絡してくれると思ったから。 六月以降、桐島あおいが何をしていたのか、『ポーラスター』の仲間で知る者はいない。 梅雨が過ぎ、夏休みに入り、お盆が終わる頃になっても、まだあおいから連絡はなかった。 菜々子は心配を深めていた。 花村たち『七星』も、 「彼女のことだから、きっと元気にやっているさ」 と言いながら、心を痛めていた。 そして、夏の終わり。 事件は起こった。 ◆ それは八月も終わりに近くなった、残暑が厳しい日だった。 ゲームセンターのエアコンが効いた冷たい空気をありがたく思いながら、おなじみの神姫マスターたちは『ポーラスター』に集まっている。 残る夏休みをバトルロンドで塗りつぶす。 それが神姫マスターの心意気、と盛り上がっている。 菜々子もその盛り上がりに加わっていた。 あおいを心配する気持ちを、一時でも紛らわせようとしていた。 今日も『七星』たちを中心に、対戦カードが組まれる。 『アイスドール』の異名を持つ菜々子とミスティは、注目の的である。 菜々子が筐体の前に立つと、ギャラリーが集まってくる。 向かいに『七星』の一人が立った。 今の菜々子は、『七星』とシングルマッチをしても、決して見劣りすることがない。 『ポーラスター』における実力者同士の対戦に、ギャラリーが沸く。 と、そこで、ギャラリーの一角から、異なるざわめきが起きた。 彼らは菜々子たちではなく、二階の入り口となる、階段の方を見ている。 ギャラリーたちは次々視線を移す。 そして、驚きとも、喜びとも取れる表情を表す。 菜々子は振り向いた。 背後にある階段を上ってくる人影。 目を見張る。 落ち着いた服装に身を包み、深いえんじ色のベレー帽をかぶり、銀色のアタッシュケースを手にした人影。 「……お姉さま……」 待ち望んでいた、その人。 桐島あおいを見間違うはずがない。 あおいが視線を合わせてきた。 菜々子を認め、目をすがめて、微笑む。 瞬間、菜々子は妙な違和感を感じた。 あおいの微笑が、ひどく作り物めいて見える。 「どうしたの? 菜々子」 あおいの言葉に、はっとなる。 いまわたしは、どんな顔をしていただろうか。いぶかしげな表情だったかもしれない。 「……い、いえ……なんでもありません」 取り繕うように微笑む。 久々の再会なのだ。 いぶかしむなんて、どうかしている。 ほら、久しぶりに仲間たちと話すお姉さまは、いつものように美しいではないか。 若干の違いがあるとすれば、以前より少し大人っぽくなったように思う。大学生になると、きっとそうなるのだろう。 菜々子はそう思った。そう思いこもうとした。 しかし、彼女の心の奥底で、警報が鳴り続けている。 菜々子の「勘」が告げている。 目の前の女性は、菜々子の知るあおいお姉さまではない、と。 確証はない。 だが、桐島あおいを見つめれば見つめるほどに違和感が強くなっていった。 「久しぶりにバトルしないか?」 そんな声を聞いて、菜々子は我に返る。 声の主は、『七星』の花村だった。 あおいはうっすらと微笑むと、言った。 「ごめんなさい、今日はあまりゆっくりしていられないのよ」 少し残念そうに苦笑する花村。 菜々子は疑念にとらわれる。 なぜ、神姫収納用のアタッシュケースを持っているのに、対戦をしないのか。 それに何より、ルミナスはどこにいる? アタッシュケースの中か? いつも肩に乗せていた仲の良い神姫を、なぜ今更アタッシュケースに入れておく必要がある? わたしの考えすぎだろうか。 菜々子が沈思している間、あおいは集まってきた常連たちと挨拶をしている。 そして、ひとしきり話が終わると、 「菜々子、少し話がしたいわ。いい?」 「あ、はい……」 お姉さまにそう言われれば、素直に返事するしかない。 あおいは菜々子に向けて、うっすらと微笑む。 瞬間、猛烈な違和感が菜々子を襲う。 違う。 何が。 何かが。 確かにあおいお姉さまなのだが、菜々子の知る彼女ではない。 それはほとんど確信だった。 常連さんたちは、仲良しコンビの久々の再会に、気を利かせて会話を打ち切ってくれた。 菜々子は笑おうとして失敗しながら、あおいの背に従った。 ◆ 連れてこられたのは、忘れ去られたような小さな公園だった。 駅を最寄りにしている菜々子でも、こんなところがあったのか、と思うほど、記憶に残っていない場所。 おそらく、菜々子だけではない。 ブランコや鉄棒といった簡素な遊具は錆びつき、ここしばらく、誰の手も触れられていないように思われる。 夏の昼間だというのに、周囲に人影もなく、閑散としている。 静まりかえり、蝉の声さえ聞こえない。 ただ、日差しだけが、存在を主張し続ける。 しかし、そんな太陽の自己主張とは裏腹に、菜々子は寒気すら感じていた。 「あなたは……本当に、あおいお姉さまですか」 声はかすれている。 心臓の音がやたらと大きく聞こえる。 公園の入り口で立ち止まった菜々子と、少し距離を開けるように、あおいは公園の中に足を踏み入れた。 そして、振り向く。 「もちろん……わたしはわたしよ。なぜそんなことを言うの?」 その顔には微笑が浮かんでいるが、ひどく作り物めいている。 菜々子は緊張する。 あおいは様子を変えずに、言葉を続ける。 「……あなたの言うとおりだったわ」 「え?」 「バトルでは勝利こそがすべて……その通りだわ」 「なにを、言ってるんですか。バトルロンドはそれだけじゃないって、教えてくれたのは、お姉さまじゃないですか……」 「そうよ……でも、それは間違いだったわ。ごめんなさい。あなたに間違ったことを教えてしまって」 何を言っているのだろう、この人は。 あおいお姉さまと同じ顔をして、真逆のことを言う。 何かに化かされているようだ。 「だから、間違いを正しに来たの。菜々子、わたしの言ったことはすべて間違い。 バトルは勝利しなくては意味がない。敗北すれば、すべてを失う……」 「違う!」 菜々子は叫んでいた。 「違います! バトルは、勝敗だけでは計れない、すばらしいものがあるって、教えてくれたお姉さまの言葉を……わたしは今も信じています!」 悲しかった。怒りに震えた。 あおいお姉さまから教えてもらったことは、菜々子にとって真実だった。 お姉さまの言葉を信じ、その背中を追いかけてきたから、今の自分がある。 そう信じている。 それなのになぜ、お姉さま自身の口で否定されなくてはならないのか。 しかし、あおいは努めて冷静に、言った。 「そう……それじゃ仕方がないわね。あなたに教えてあげるわ」 「……なにを」 「敗北の、意味」 あおいがそう言うのと同時、彼女が手にしていたアタッシュケースが、重い音と共に開いた。 そこにいたのはルミナス、ではない。 闇がわだかまっているかのような、黒い神姫が、いた。 菜々子は、この神姫のことをよく思い出せない。 しかし、ルミナスでは断じてない。 「ルミナスは、どうしたんですか」 「……あの子は、負けたわ。そして……わたしはあの子を失った。壊されたの」 「そんな……っ!」 「それが敗北よ……。 でも、大丈夫。わたしには新しい神姫、マグダレーナがいるから」 「マグダレーナ……?」 それがその神姫の名か。 あおいはなおも言葉を続ける。まるで変わらない口調で。 「そして、心残りを……消すわ」 「心残り……?」 菜々子の疑問に、あおいはいっそ鮮やかに笑った。 「あなたに、負けたこと」 「……!!」 菜々子は絶句した。 まさか、あのただ一回の敗北を、心残りだなんて……! 「さあ、菜々子、バトルをしましょう」 「バトルって……ここで、ですか」 「そうよ」 「……リアルバトル、ってことですか」 「ええ」 あおいは何のためらいもなく、頷いている。 菜々子は驚きながらも確信する。お姉さまがルミナスを失ったのは、リアルバトルで負けたからだ。 リアルバトル自体は、そう珍しいことではない。 バトルロンドの最高峰、ファーストリーグはリアルバトルで行われる。 しかし、ファーストリーグさえも、ミラージュリーグの立ち上げによって、バーチャル化への道を歩み始めている。 神姫を失う可能性のあるリアルバトルは、いまや下火なのだ。 また、ファーストリーグでは、ルールやレギュレーションが厳格に決められており、神姫を失うリスクを出来る限り少なくするようにしている。 しかも、今菜々子がいる状況でのリアルバトルは法律違反だ。 対戦の流れ弾でマスターが負傷するかもしれないし、一般人を巻き込む可能性だってある。 それがわからないあおいではないはずだ。 それでもこんな場所での対戦を言い出すとは……。 「お断りします」 「……なぜ?」 「こんなところでリアルバトルなんて、おかしいです。戦う意味がありません」 「……ならば、意味を作ってやろう」 ひどくしわがれた声が、あおいの代わりに答えた。 次の瞬間、黒い小さな影が、菜々子に殺到した。 驚き、身体を傾ける菜々子。尻餅をつく。 さきほど菜々子がいた場所を、銀光が凪いだ。 神姫だ。 あおいの黒い神姫が、菜々子を襲ってきたのだ。 不気味な視線が、なおも菜々子を射る。 菜々子はひるんだ。 動けない。 神姫が人を襲うなど、想像もしていない。 再び、影が殺到する。 殺される! 菜々子が身を縮めた、その時。 白い影が、黒い影の行く手を阻み、攻撃をはじいた。 「大丈夫ですか、マスター!」 「ミスティ……」 転んだ拍子に、アタッシュケースの開閉ボタンを押してしまったらしい。 中で待機していたミスティが飛び出し、菜々子を守ってくれたのだ。 今は、菜々子に背を向けて、闇のごとく黒い神姫と対峙している。 「装備したまま待機していて、正解でしたね」 何の根拠もない勘だった。 菜々子はミスティをフル装備にして、アタッシュケースに仕舞っていた。 おかげで命拾いした。 ミスティは武器を構え、マグダレーナを牽制する。 菜々子も立ち上がる。 「……やる気になった?」 「お姉さま……」 「どちらにしても、もう戦うしかないわね?」 「お姉さまっ!」 黒い神姫が、出る。 同時に、白亜の神姫も地を蹴った。 運命の戦いは、菜々子が望まぬまま、始まってしまった。 ◆ ミスティは焦っていた。 この神姫、とらえどころがない。 マグダレーナというらしい、その黒い神姫は、ライトアーマー程度の軽装備。 ミスティはおなじみのストラーフ装備のカスタムだ。 だが、マグダレーナは、ミスティの攻撃をことごとく封殺していた。 菜々子からの「ムチャぶり指示」を期待しているが、いまのところ指示が来る様子はない。 「くくっ……あの女の、無茶な指示を待っているのか?」 「!?」 「無駄だよ。その指示が出せぬように立ち回ることなど……造作もない」 ミスティは驚く。 「ムチャぶり戦法」を封じるなんて、そんなことが可能なのか? だが、菜々子は思い通りの戦いが出来ずに迷っている様子だ。 この神姫の言うとおりかも知れない。 ムチャぶりが封じられているのかも知れない。 だが、ミスティは信じていた。 ムチャぶりがなくても、この程度の神姫に後れは取らない。いまやわたしたちは、『七星』にも匹敵する実力があるのだから。 「ムチャぶりはできないわよ、菜々子」 「……!」 「マグダレーナには、あなたの戦い方を教えてあるわ。 ムチャぶり戦法を封じる……それはそんなに難しいことじゃない。 ミスティの正面を取り、一定の間合いで対峙する。そして、無駄な動きはしない。 ムチャぶり戦法は、相手の動きに対応するものだから、無駄な動きをせずに対峙すれば出しようがない。 こんな障害物のない、平坦な場所なら、なおさらのこと、ね」 まさか、そんな真っ当な方法で封じられるなんて。 しかし、菜々子にも手がないわけではない。 「だったら、こっちも正攻法です。ミスティ!」 「はい!」 ミスティは地を蹴り、一気に間合いを詰めた。 菜々子が一度は捨てた、『アイスドール』の呼び名の由来となった戦法。 近接格闘戦での容赦なく弱点を突き続ける戦い方。 マグダレーナは、ライトアーマー程度の装備でしかない。 副腕を持つストラーフの攻撃を捌ききるのは容易ではない。 しかし。 「……うそ……」 必殺の抜き手すら見切られ、捌かれて、間合いを取ったのはむしろミスティだった。 あれほどのラッシュを見切られるなんて、今までになかった。 しかも、マグダレーナは余裕を持ってかわしているようにさえ見えた。 黒い神姫の底知れぬ力に、ミスティは畏怖を感じる。 マグダレーナが……桐島あおいが知っているミスティの戦法は通用しない。 もはや手がない。 ……いや、たった一つ、ある。 春から練習している、あの技。 あおいが去った後から練習している技ならば、二人とも知るまい。 「菜々子、あの技を使います」 「でも、あれは」 「大丈夫。必ず決めます」 菜々子に言いながら、ミスティは自分にも言い聞かせていた。 実は、その技はまだ一度も成功していない。 しかし、八割がたの完成度でも、マグダレーナをとらえることは出来るはずだ。 ミスティは、背後にマウントされていた大剣を自ら握ると、構えた。 マグダレーナは微動だにしない。 それほどの自信か。 「はぁっ!!」 気合い声と共に、ミスティは一足跳びに地を駆ける。 一瞬にして被我の距離が埋まる。 間合い。 ミスティがその技を放つ。 だが。 「うああああぁっ!!」 とどめの攻撃を出すよりも早く、マグダレーナの刃がミスティを裂いた。 どっ、と地に伏す。 「くくっ……練習していた技だな。完成していれば……危ないところだったぞ」 「な……なぜ知ってるの……!?」 「知っているとも。貴様の戦い方はすべてお見通しだ」 ミスティは愕然とする。 この黒い神姫とは初対面だ。 そもそも『ポーラスター』に来たのだって、今日が初めてのはず。 なのになぜ、今の技を知っている!? 「ミスティィィッ!!」 菜々子の……マスターの声がする。 立たなくては。そして、菜々子を守らなくては。 ミスティは手にした大剣を握り、立ち上がろうとして……できなかった。 「……がああぁっ!!」 握っていた手首ごと、切り落とされた。 苦痛にのたうつミスティに、黒い神姫から、次々と刃が振り落とされる。 ミスティの四肢を確実に破壊していく。 「やめて! やめてよ!! もう勝負はついたでしょう!?」 菜々子の声がする。 泣き叫んでいる。 朦朧とする意識の中、ミスティはそれでも剣をとろうとしていた。 菜々子を、守らなくては。 不器用で負けず嫌いで、でも笑顔がとても魅力的な、大切なマスターを。 あの涙を止めなければ。 ミスティは残された手で、大剣の柄を握る。 その時。 声が、した。 「敗北を知れ、『アイスドール』」 ミスティは一挙動に起きようとする。 振り向こうとする。 それと同時。 「やめてーーーーーーーーーーーーっ!!」 菜々子の絶叫。 そして。 ミスティが起きあがることは、ついになかった。 マグダレーナの刃が、ミスティの背から胸を貫いていた。 「……あ……」 その声が最後。 瞳から光が消える。 ミスティはすべての機能を停止した。 ◆ まただ。 また、世界は灰色に染まって見える。 五感が伝える現実世界の事象に、現実感はない。 容赦ない日の光さえ、菜々子には遠い。 ただ、手のひらの上の小さな人形の重さだけが、現実を伝えている。 自分の瞳から流れては落ちる涙だけが、時間の流れを刻んでいる。 どれほどの時間が流れたのかすら、定かではない。 膝を着き、手のひらに乗せたミスティを掻き抱きながら、菜々子は慟哭していた。 その背にかけられた声が、いつまでも続く悲しみに亀裂を入れる。 「わたしの勝ちね」 がば、と顔を上げる。 涙でグシャグシャになっているであろう顔を上げ、声の主を睨みつける。 視界は止めようもない涙で、ぼやけている。 わたしはどんな顔をしているだろう。 鬼のような顔をしているだろうか。 お姉さまにそんな顔を向けたことは、今までにない。 「……なぜ……ですか……」 やっと絞り出した一言。 それが感情の殻を破った。 「なぜですか、なぜなんですか!? なんでこんな、ひどいことを……!」 絶叫だった。 一番大切な人に、大事なパートナーを奪われる。 こんな理不尽なことがあっていいのか。 「強くなるため、よ」 あおいは、むしろ淡々とした口調で、答えた。 「あなたの神姫を倒したわたしは、もう誰の神姫でも、ためらうことなく破壊できる」 「そんなことのために、ミスティを殺したって言うんですか!?」 「……ええ」 肯定の言葉に、菜々子は涙を乱暴に拭って、あおいを睨んだ。 だが、その時見た彼女の表情に、菜々子は思わず息を飲む。 「赦して欲しい、なんて言わないわ。謝ることも出来ない。 わたしにそうさせたいのなら……わたしたちを、マグダレーナを倒しなさい」 なんで、そんなに辛そうな顔をしているんですか……。 いっそ嗤いながら勝ち誇ってくれるのなら、憎むことも出来たのに。 あおいはきびすを返し、菜々子に背を向けた。 「さようなら……菜々子……」 その声は、かすれていた。 あおいは去ってゆく。 その背中が遠くなる。 菜々子は声を上げることも出来ないまま、その場に動けずにいる。 あおいの姿が見えなくなる。 菜々子は張り裂けんばかりの大きな声で泣き叫んだ。 □ 「……その後、久住ちゃんはここに来てさ……。 ぎょっとしたよ。あんな風に泣いている彼女は初めてだったからね。 破壊されたミスティを手に持って……そりゃあ驚いた。 まさか、そんなことになっているなんて、誰も思わなかったもんな……」 花村さんの口調にも視線にも、懐かしむような様子はどこにもない。 言葉ににじむのは……後悔、か。 「あの時、二人を止めていれば、違う結果になったんじゃないか……。何度もそう思ったよ。 でも、そんなのは、後から思えばってことで……あの時は誰も、桐島ちゃんを疑いもしなかった……」 「……進学した先で、桐島あおいに何があったんですか?」 夏に現れた桐島あおいは、春までの彼女とはまるで違っている。 自分の神姫を失った悲しみから、自らの矜持まで変えてしまった……というだけでは説明が付かないほどの豹変ぶりだ。 大学通学のために引っ越した土地で、何かがあったに違いない。 だが、花村さんは首を横に振るだけだった。 「それは誰にも分からないよ……少なくとも、『ポーラスター』に来るメンツは誰も知らない。久住ちゃんも詳しいことは知らないんじゃないかな」 「……そうですか」 花村さんは、疲れたようにため息をついた。 時計を見ると、もう随分と時間がたっている。 長すぎる立ち話だった。俺の方も、精神的にかなりきつい話だった。 ここらが潮時だろう。 「今日はこのあたりにしましょうか」 「うん」 「長い時間、ありがとうございました」 「もし、何か知りたいことがあったら、聞きに来てよ。俺たちに協力できるのは、きっとこれぐらいだろうから」 「……ありがとうございます」 頭を下げた俺に、花村さんは弱々しく微笑んだ。 俺は思う。 ……これはやっかいな仕事かも知れない。 菜々子さんを助けるということは、同時に、『ポーラスター』の古参マスターたちを救うことでもあるのだ。 ◆ 翌日。 花村耕太郎は、いつもと変わらず、『ポーラスター』にいる。 長老、と呼ばれるのは、もう何年も毎日のように、ここに通ってきているからだ。 (……だいぶ変わってしまったな) と、花村は思う。 久住菜々子と出会った頃の常連は、もう何人もいない。 『ポーラスター』に通ってくるメンバーは少しずつ変わっている。明日にも、明後日にも、また変わっているかも知れない。 それでもずっとここで神姫マスターをやっている自分は、過去の仲間たちのために居場所を守り続けているようなものなのか。 遠野と昔の話をしたからだろうか、少し感傷的になっているようだ。 花村が口元に苦笑を浮かべた、その時。 「お久しぶりね、花村くん」 呼びかけるその声に、聞き覚えがあった。 顔を上げる。 目の前に立っていたのは、確かに知った顔だった。 だが、花村の顔は驚きに染まり、言葉を失う。 どうして彼女が、今ここにいる!? 桐島あおいが、そこにいた。 次へ> Topに戻る>
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「滅亡迅雷!インパクト! (滅亡迅雷インパクト!)」 【名前】 滅亡迅雷インパクト 【読み方】 めつぼうじんらいいんぱくと 【登場作品】 ゼロワン Others 仮面ライダー滅亡迅雷 【分類】 必殺技/ライダーキック 【使用者】 仮面ライダー滅亡迅雷 【詳細】 仮面ライダー滅亡迅雷の必殺技。 滅亡迅雷ドライバーにセットされるマスブレインゼツメライズキーを押して発動。 エネルギーを右脚に蓄積し、必殺のキックを相手へ放つ。 他のライダーのようにカットインもある。